ブルーリーアースを去る日

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梗 概

ブルーリーアースを去る日

 未来。女性型AIアンドロイドのシズネは、アンドロイドがサービスを提供する風俗店に配属されている。

 彼女は男を待っている。

 数ヶ月前に初めて来店し、シズネを指名した。従来店と同様、来店前に気に入った子を指名できるが、初来店で指名するケースは少ない。アンドロイド専門店は「嬢」の質にバラツキがないからだ。指名の理由を訊いても答えない。どんなプレイをしたいかと訊くと何もしないと言われ驚く。男は話がしたいと言い、本当に他愛ない話をして帰った。それ以降、定期的に来てはシズネを指名し、話だけして帰っていった。

 シズネはこの日、メンテナンスで工場に連れて行かれる。定期的なもので、同じ店に戻らないこともある。待機室には監視役を兼ねて店長のカスガイがいる、ましな笑顔ができるようになってこいとか、指名が増えるように豊胸してこいとか、そういう類いの嫌みを言う。シズネの売り上げが不満なのだ。

 男が来始めてひと月が経つ頃、なぜ自分なのかと訊いた。男によるとシズネの顔はもとは恋人のものだという。彼女は悪徳なブローカーによって自分の容姿NFTを作られ、その所有権も奪われ、最後は自殺したという。確かに人造物でありながら唯一無二の容姿を持つ「嬢」の在籍を売りにする店も多い。中にはあくどいやり方でそのためのNFTを集めるブローカーがいた。男は恋人の容姿NFTを追ってきた。シズネを自由にするという。説明に戸惑うものの、自由という言葉にシズネは強く惹かれる。

 シズネは男が連れ出しに来るのを待つ。業者が来ればそのまま工場に連れて行かれる。ここからは逃げられないとカスガイが脅してくる。メンテナンス業者が迎えに来る日に連れ出す。男が言ったのはそれだけだった。

 男に職業を訊いたことがあった。ただの会社員だと言う。男は土曜日の夜に車で来ることが多かった。いつもは夜の二〇時頃に来るがたまに渋滞にはまって遅い時間にきた。「申し訳ない。道が混んでたんだ」と男が謝るときの言い方がシズネは好きだった。

 業者が来る時間はわからない。カスガイは教えてくれない。逃亡を企てる「嬢」は何人もいたが全員失敗したという。店のセキュリティーは万全だと強調された。

 夕方を過ぎても男は来ない。シズネは諦めた。ついに業者が来たことを知らされる。カスガイに連れられて店外に向かう途中で突然、警報が鳴る。武装した男が押し込んできたという。まさか、とシズネは思う。しかしガードマンによってすぐに連れてこられた男を見て落胆する。逆恨み客のようだった。シズネはそのまま店外へ連れて行かれる。外にいた作業帽の男が心配そうに訊くのをカスガイは笑って、何でもない、あとは頼むと言ってシズネを突き出す。彼はシズネを中に押し込みすぐに発車させる。店が見えなくなると作業帽を脱いで男は来るのが遅くなったと謝る。あの、シズネが好きな言い方だった。

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内容に関するアピール

「希望」がテーマです。

AIアンドロイド、風俗産業、脱出劇を掛け合わせてワンシチュエーションのSFを目指しました。

梗概での描写はありませんが、作中の世界には従来通り人間がサービスを提供する店も存在しています。

そちらのほうは高級店で、アンドロイド専門店は低価格帯、と差別化されている設定です。

回想と現在とを交互に書いている手前、アクションに欠けるきらいがあります。

とくに現在の時間軸を書く際は、心理描写と状況描写でサスペンスを盛り上げられるように努めます。

ちなみにタイトルのブルーリーアースとは、作中の舞台となっているお店の名前です。

よろしくお願いします。

 

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