コンピューター発電
熱暴走。
リブーストが終わると、温度異常のアラートが船内にひびき渡った。渡辺とハニアはエラーを解決するため、いそいで発電装置の映像端子とモニタを接続した。そのエラーを確認するとハニアは思わず笑ってしまった。ふたりは休ませるしかないと判断し、20分後に発電を再開することとチャットに入力する。他の装置の余力で問題ないことを確認し、20分後には発電装置は予定通り再開した。
宇宙ステーションは実験モジュール4棟と結合モジュール3棟、保管庫モジュール5棟だけで構成され、発電装置の開発のおかげで太陽光パネルが必要なくなった。軽く小さくなった宇宙ステーションは、高度調整も年に一度のリブーストで済むようになった。
「僕がやったほうが、自動運転に任せるより正確」と渡辺は言いながら、20個はある計器をひとつひとつ指さしながら確認している。
「そんな数の計器の正常値を全部覚えているんですか?マニュアル見ながらやればじゃいいないですか?」とハニアが言うと、こっちのほうが正確だと計器を見ながら答える。超電導モーターの角度を調節するため、眉間に深い皺を寄せながら、レバーを握りコンマ単位で調整している。いくぞと小さな声でつぶやくと、リブーストボタンを押しながら、いくつもの計器を見ている。必要高度まで針が回ると、ボタンから手を放し周回軌道を維持している。
発電装置のメンテナンスに取り掛かるため、先ほど熱暴走した発電装置をラックから外し、実験モジュールに運ぶと実験台に固定した。渡辺は50ミリほどの箱の上面の蓋が固定されているネジを一本ずつ外し、船内に漂うとハニアがキャッチし握りしめていた。
「私、装置の中身なんて初めて見ます」と楽しそうにハニアが言うと、ここからは精密作業だと渡辺がぼそっといいながら蓋を外すと中心に金色の円錐型をした変換器があり、チューブのようなもので何かとつながっている。チューブの両端部にバルブがついており、そこを占めると変換器のカバーが外せる。
「こうしないとガスが漏れてしまうからね」というと、カバーを外し、30ミリくらいの長さに何十枚もの羽がついていた。渡辺はレンズのついたヘッドギアをセットし、クリーニングブラシを取り出すと、先端が2ミリ程度のブラシ部分で一定のリズムでほこりをクリーニングしていく。それが終わると基盤についているプロセッサのグリスをふき取り新しい放熱グリスと塗っている。基盤もブラシでクリーニングすると、チューブ、カバーと順々に戻し行く。
「CPUで発生した熱でタービンを回して発電している」そういわれるとハニアは驚きながらそんなの仕組み発電していたのですかと驚いていた。
「地球のほとんど物はこの方法で、家の家電、車すべてのものがそう」
映像端子とモニタをつないで熱暴走のシーンの録画映像を確認すると、シープ・メドーそっくりな景色の中でエアロバイクが8台も並び、足の8本生えた人型のNPCが二人。一人はほぼ気を失いながらバイクを漕ぎ、もう一人は木の下でゲーゲー吐き散らかしている。真剣にその映像を見る渡辺をよそに、ハニアは笑いをこらえきれず吹き出してしまった。笑ってるんじゃないという顔でちらっとハニアを見つめチャット画面に移ると、
イラつきながら、今回の原因はと聞くと埃による温度の上昇だと返信された。
「機械なんだから、暴走する前にアラートを出せ、体たらくなやつめ」
そういわれたNPCは明らかにイラついた顔で、
「お前のほうがよっぽど機械みたいなやつだな」
確かにとハニアは思わず笑った。
文字数:1460
内容に関するアピール
- NPCが運動し、その熱で発電するというありえない仕組みを考えました。それに加えて、人間みたいなコンピューターと、コンピューターみたいな人間の登場人物も合わせることで、ありえない仕組みがユーモラスに描ければと思いました。
- 僕らを取り巻くさまざまな事柄は、バグとヒューマンエラーが混ざり合い、よくわからないことであふれています。そんな今日的状況をも飲み込んでしまいたいと思いながら書きました。
文字数:193