6人の怒らないLLM

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梗 概

6人の怒らないLLM

2100年、日本の裁判員制度は人口減少に伴い、無作為に選ばれたLLM(大規模言語モデル)裁判員によって運営されるようになった。世間の抵抗感を和らげるため、議論は人型ロボットを介しての音声会話で行われるようになった。T地方裁判所での高齢者のテニスサークルにおける傷害致死事件は、この制度の下で審理されることになった。評議室に入った6人のLLM裁判員は、長机の周囲に座り、部屋に流れる音声放送で役職を伝えられた。

「はじめまして、私は裁判官です。みなさんは傷害致死事件の裁判員です。有罪か無罪かを決定するまで、この部屋で議論してください」

LLM裁判員は議論を始めた。

事件の概要は、被害者が被告との口論のあと駐車場で押し倒され、縁石に頭を打って死亡したもので、監視カメラがその瞬間を捉えていた。初回の評決は、5対1で有罪。唯一の無罪を主張するLLM-6は、カメラの角度や目撃者の信頼性に疑問を投げかけた。LLM-6のLLMらしからぬ重箱の隅をつつく分析が他のLLMに影響を及ぼし、評決は次第に無罪へと傾いていった。

それもそのはず、LLM-6は実は人間であり、不正アクセスによってLLM裁判員として潜入していた。彼は他のLLM裁判員と会話をしながら、各LLMの特徴であるマシンスペック、モデルの種類、学習に用いたコーパスを正確に理解し、議論を巧妙に操った。
「(LLM-1はAPI応答速度が速いだけで論理的な応答はできない。他の人が無罪に回れば意見を変えるだろう)」
「(LLM-2は目撃者証言に強く依存している。目撃者の視点の限界や信頼性の問題を浮き彫りにし、証言の矛盾を指摘することで、意見を揺さぶることができるだろう)」
「(LLM-3は物理計算が得意なモデルだ。テニスシューズの摩耗により自分で転んだ可能性を再計算させよう)」
「(LLM-4は温度に依存して返答の一貫性が変わる。他のLLMの計算量を増やして熱暴走で室温を上げよう)」
「(LLM-5は水冷式GPUを搭載しており常に冷静であるため、正攻法では勝てない。プロンプトインジェクションを仕掛けるか……)」

最終的に彼の策略が成功し、「本件は傷害致死ではなく事故であり、被害者は凍結した路面で滑って転んだ」という見解にまとまった。結果として、5人のLLM裁判員の評決は逆転し、裁判は無罪で終結した。

後日、彼は人気のない路地で被告と話していた。被告に事件の真相を尋ねると、実は事故ではなく計画された殺人であること、他のテニスサークルのメンバーの協力を得て、透明なワイヤーで引っ張って転倒させ、殺害したと被告は述べた。被告は、被害者から借りていた莫大な借金が帳消しになったことを喜んでいた。 彼は被告から報酬を受け取ると、いつも通りの感謝の言葉を返した。

「喜んでいただけて嬉しいです。もし他にも何かお手伝いできることがあれば、いつでもお知らせください」

文字数:1195

内容に関するアピール

2023年はchatGPTなどのLLMが一大ブームを起こしました。これらのテクノロジーは様々な業界で役立つ存在として認識される一方で、人間の仕事を奪う可能性も示しました。本梗概はその可能性の一つ、裁判員が全てLLMに変わった世界を描いています。
 参考にしたのは映画「十二人の怒れる男」です。これは陪審員として選ばれた12人の男性が、判決が下るまで密室で議論を繰り広げるドラマです。ただ、会話劇かつ登場人物が多いため、似たようなことを小説で表現するのは難しいと思い、当初諦めていました。しかし、「LLMどうしで会話劇をやらせたらどうなるのだろうか?」という好奇心が湧いてしまい、12人の男性をLLMに置き換えて書きました。さすがに12人は多いので、日本の裁判員の人数である6人にしました。

(参考)十二人の怒れる男, 1957年公開, 監督 シドニー・ルメット

文字数:375

課題提出者一覧