梗 概
フィニッシュライン・テープ
「第5回ワシントン・ハイブリッド・マラソン」のゴール地点。クロード・グレイはボランティアの業務に追われていた。条件を満たした仮想トレーナーによるリモート参加でも公式記録として認められるようになって以降、マラソン大会の実会場参加者数は激減していたが、それでも会場警備は年々厳重さを増していた。
スタート後間もなく、アティックを名乗る男から、クロードのウェアラブルに着信がある。
「指示に従え、さもないと家族を殺す」
アティックはゴール地点に装備されているAEDを、別のものとすり替えるよう指示してきた。爆弾だと確信したクロードはテロを阻止しようと、外部との連絡を試みる。
クロードは、仮想トレーナーで大会に参加している友人のマウリをトレーナーアプリで呼び出して協力を仰ぐ。マウリはFBIに通報するが、FBIは誤報だったとして引き返してしまい、マウリとの連絡も途絶する。やりとりは筒抜けだった。アティックは、次は家族を殺すと脅す。
アティックにさとられないよう市警の警官ディーヌに話すと、気付かぬ振りをしながら協力してくれる。だがディーヌの上司はガセだとして取り合わない。
クロードは会場のテロ対策に使われているC418スキャナーのオペレーターである友人のマニシュにAEDをスキャンするよう頼む。C418スキャナーはミリ波レーダーと中性子を併用した最新の装置で、軽微な被曝をもたらすことから政府は装置に中性子を使用している事実を隠していた。
AEDは爆弾ではなく、通信機器のような物が内蔵されていた。設置場所の裏側に、仮想トレーナーにデータを送る配線があるのに気付いたマニシュはテロの標的が会場ではなく仮想トレーナーの利用者だと推測する。配線は二重化されており、バックアップに切り替えればテロは回避できる。しかしそれをアティックに知られたら、家族が殺されるかも知れない。
今日は妻が娘を幼稚園に送っていく予定だが、昨日、隣家の工事をしていた業者が手違いでグレイ家のガレージの電線を切ったため、修理を待つ間車を出せなかった。クロードは、妻はもう娘を車で送っていったか、とカマをかける。送っていったと答えるアティック。家族を監視しているというのはブラフだと確信したクロードはバックアップへの切替を指示。しかしそこへ妻からのメッセージが。「もう直ったので車で送ってきた」
だが家族は殺されない。何故か。間違えて切られた電線からの連想で、仮想トレーナーの配線の隣に、別の配線があるのに気付く。C418スキャナーのコントロール線だった。アティックの目的はスキャナーを乗っ取ってゴール地点に莫大な量の中性子線を照射するテロだった。
これを回避するにはスキャナーを完全停止するしかない。会場警備に穴を開けることになるが、テロを防ぐには仕方ない。ディーヌはクロードの家族を守るため自宅へ向かい、マニシュはスキャナーを停止する。マラソンのボリュームゾーンがゴールする時間になる。危険物を検知できない中、クロードは警戒を続ける。
そこへ不審な男が現れる。アティックはスキャナーを停止するところまで見越して、会場へ自ら爆弾を持ち込んでテロを行う算段だったのだ。
クロードはマニシュに頼み、アティックにピンポイントで高線量の中性子線を照射し、爆弾の起爆装置にソフトエラーを起こさせた。
家族はディーヌによって保護され、クロードはアティックを取り押さえる。
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内容に関するアピール
ワンシーンと聞いてまず思い浮かんだのが『裏窓』と『フォーンブース』だったので、ハリウッドの巻き込まれ系パニック・サスペンス映画みたいなのを目指して書きました。
C418スキャナーの名前の由来は、新約聖書・コリント人への第二の手紙 4章18節です。
「わたしたちは、見えるものにではなく、見えないものに目を注ぐ。見えるものは一時的であり、見えないものは永遠につづくのである」
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