アルミ食愛好家

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アルミ食愛好家

 アルミホイルなんか食ってんじゃねーよと思いながら、私は直にハンバーガーを掴んだ。一口かじると反対側からソースやピクルスがはみ出てトレーに落ちる。悪戦苦闘する私に、姉は憐みの目を向けてきた。指が汚れないようにアルミホイルを折りたたんで、ちまちまと食べている。
「それ本当に美味しいの?」
 アルミ食愛好家の姉に包みを取られなければ、私だって普段通りまともにハンバーガーを食べることはできた。ハンバーガーを包んでいたアルミホイルは、バーベキューソースの味でもするんだろうか。店内は騒がしいのに、チャリチャリという耳障りな咀嚼音はよく聞こえてくる。
「ファストフードの包みだし妥当だよ。なんて言えば伝わるかな……。一円玉を引き伸ばしたみたいな感じ」
 ボディビルの掛け声みたいなことを言われても反応に困る。久しぶりに帰省した姉の口から聞くとさらに強烈で、なんとか食べ物としてのおいしさとはまた別の価値を見出そうとしているみたいだった。
 アルミ食愛好家はここ数年増えている。姉に尋ねればアルミを食べる意義を熱弁してくれるだろうけど、包みや容器として使われたアルミを食べたらゴミが減って環境に優しいとか、食糧難に良いとかいうふわっとした理由で始める人が多い。中には人類のロボディスク化を見込んで、身体を慣らすため金属であるアルミを体内に取り入れているという人もいるらしい。
 アルミ食の取り入れかたは人それぞれで、姉のようにアルミ製品だけを食べている人もいれば、食べ物をアルミホイルごと食べるくらいの軽い愛好家もいる。程度は様々でも皆熱心にアルミ食の普及に努めるので、ファストフード店を中心に紙の包装からアルミホイルに変わる社会現象が起こったぐらいだ。すごくあっさりと、拍子抜けするぐらい素早く。けれど、私は中身だけを食べたい。
「よく分かんないけど、不味いんだったらハンバーガー食べなよ。一口あげるよ?」
「ダメダメ。身体が受け付けないと思う。そんないろんなものが混ざったの食べたら胃がひっくり返るよ」
 姉はアルミホイルを半分ほど食べると、くしゃくしゃに丸めて玉を作り、一口で食べ切った。それからピルケースを取り出して、錠剤を掌に載せる。慣れた手つきで十個ぐらいを一気に口の中に放って、水も飲まずにゴクリと喉を鳴らして飲み下した。これで姉の昼食は終わった。
 店員が私たちのテーブルに近づいてきて、番号札を掴む。そして姉に素早く持ち帰り用の袋を手渡すと、次のテーブルへと去っていった。姉が嬉しそうに袋から正方形にカットされたアルミホイルを一枚取って、口に入れる。
「これ一回食べてみたかったんだよね。小学生の夢だなぁ」
 光るレア折り紙の束みたいだからか、と一拍置いて理解した。少なくとも余分にアルミホイルをオーダーしている時点で、環境配慮からは外れている気がする。でもアルミを食べない私が言うと、揚げ足取りだと反論されるだけだ。私がじっと見ていたのを物欲しそうにしていると勘違いしたのか、姉がおずおずと正方形にカットされたアルミホイルを差し出してきた。
「もし興味あるなら、そっちこそ一口食べてみる?」 
「いらない。全然食べたくない」
 ハンバーガーに齧り付いて、まだ食べ終わってないのだとアピールしてみる。姉と会う時はいつも気をつけていたのに油断した。アルミ食愛好家の人たちはとても手慣れている。これを好機と見たのか、姉はぐいぐいと持ち帰り用のアルミホイルを押し付けてきた。スラスラと出てくる言葉に圧倒される。姉の奥歯にアルミホイルが張り付いていてキラキラ輝いていた。
「はい、ものは試し。食べず嫌いはよくないよ」
 姉の手によって小さく丸められたアルミホイルを、無理やり口の中に放り込まれた。何の味もしないなと噛んでいたら、口の中でキーンと痛みが走る。思わず頬をおさえた。
「あれ、奥歯まだ銀歯なの? そしたらアルミは食べない方がいいかもね、ガルバニック電流が起こるから」
 ごめん、銀歯をセラミックに変えるのは常識って思ってたけど、普通の人にはまだ浸透してないんだね。ヘラヘラと笑いながら、姉は紙ナプキン差し出してきた。アルミホイルを吐き出してもまだ嫌な痺れが残っている。人類の身体はやっぱりアルミなんて受け付けない。ハンバーガーは半分ほど残っていた。普段はペロリと食べられてしまうのに、もうお腹いっぱいだった。
「私もう食べないからさ、ハンバーガーいらない? こっちの方がずっと味がするよ。私も食べたんだからお姉ちゃんも食べてよ」
 姉のお腹がぐぅと鳴った。食べかけのハンバーガーと、吐き出してしまったアルミホイルのかけらに自然と目が行く。
いや。やっぱりアルミだけでお腹いっぱいになるってことが、いいことなんだよ」
 トレーをテーブルの端に寄せると、姉は仕事の愚痴を言い始めた。

文字数:1973

内容に関するアピール

今回の出題の意図を、あり得るものの中から浮き彫りにするあり得なさと解釈しました。なので現実のような設定の中で、アルミホイルを食べてもらっています。美味しくなさそうです。実際にアルミを食べるようにはならないとは思いますが、今後は今まで食べ物として見てこなかった何かを食べるようになるのではないかなと思って書きました。ただありえない食料になるものをというだけでは捻りがないので、ゴミを少なくしようとか環境に優しくあろうとか、目的を持った食料の選択(名目上)として包み紙などの代替になりそうなアルミにしました。個人的には、理由付けをして食べ物を選んでも結果として環境に優しいかどうかはまた別の話だと思っているので、アルミ食が実際機能していないのではという主人公の目線からお話を書きました。

文字数:341

課題提出者一覧