ディープフェイクおばあちゃん

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梗 概

ディープフェイクおばあちゃん

 戦争なんて、敗けてよかったのに」
  英雄の妻になるのと引き換えに、巨大な喪失感を抱え続けた。それが彼女の人生だった。
――大日本テレビ『戦勝記念特番〜英雄の妻と呼ばれて〜』
 
 ばあちゃんが、死んだ。
 
 誠は、祖母が大好きな小学生。
 祖母の夫、つまり誠の祖父は先の大戦で窮地に陥った日本を自らの命と引き換えに勝利へ導いた英雄だ。
 戦後、祖母は英雄の妻として莫大な遺族年金を貰い、一人息子である誠の父を育てた。
 
 その祖母に寄生して生きてきたのが誠たち家族だ。
 
「母さん! 母さん!」と叫びながら、父は祖母の亡骸に跨って心臓マッサージを続けた。
「僕が心配で、死ぬに死ねないって、言ってたじゃないか!」
 父は売れない画家だった。ここ数年は、どうせ売れないからと筆を執ることさえしていない。
 やがて祖母の死を受け入れた父は、泣きじゃくりながら金庫からメダルを取り出す。幼い頃にある男達から貰ったもので、困った時は刻印された番号に連絡するよう言われたという。
 
 現れたのは三人の老人だった。
「大佐は命の恩人だ」
 大佐、つまり祖父が死の直前まで気にかけていたのが、本土に残してきた幼い息子のことだった。だから戦後、祖父の部下である彼らは父にメダルを渡したのだ。
 
 父は懇願した。遺族年金がなければ僕ら家族は食い上げだ。母を、生き返らせてくれ!
「了解した。我らディープフェイク部隊、最後のご奉公。大佐のご家族のために戦うぞ!」
 
 現実世界で死んだ祖母を情報空間の中で生き長らえさせ、遺族年金を受給し続ける。それがDEEPFAKE OVERTURE作戦の要諦だ。
 
 日本の基礎自治体は、それぞれ人工衛星を飛ばし宇宙から住民を監視するシステムを導入していた。この人工衛星のカメラをハックし、祖母の姿を定期的に映す。
 更に祖母が生前に残した行動記録を片っ端から集め、祖母の動きを無限に再現するアルゴリズムを完成させる。
 
 祖父が率いていたディープフェイク部隊の老人達は、祖母の偽情報を流し続けた。
 
 三ヶ月後、福祉課の職員が訪れる。その職員は祖母と親しく、最近祖母が直接会いに来ないことを不審に思ったのだ。
 祖母と会うまで帰らない、と言う職員の前に現れたのは、祖母だった。
 なぜ暫く顔を見せなかったのか、と職員が尋ねると、祖母は答えた。
「……(あなたとの関係を)断捨離」
 
 その祖母の正体は、屍をスキャンし、あらゆる生体情報を再現した着ぐるみだった。中に入っているのは、体型が華奢な誠である。
 
 一週間後、英霊遺族会に出席した父は、大日本テレビから祖母に密着取材する戦勝記念特番のオファーを受ける。
 誠は断るよう説得するが、出演料に目が眩む父は聞く耳を持たない。
 老人達は言う。大佐は仰っていた。ピンチの時は前へ出ろ。衆目の集まる局面で完璧に騙し切ってこそ、真の勝利だ。頑張れ、誠くん!
 
 冗談じゃないよ、と誠は思った。

文字数:1200

内容に関するアピール

 選択課題 
 2017年第3回  「冒頭で引き込め」
 
「そういえば、俺のばあちゃんってもう九十越えてるんだけど、今だに年金で毎月○○万円ぐらい貰ってるらしいんだよね〜」
「え、な、なんで!?」
「いや、なんか死んだじいちゃんが町役場の助役だったから、その関係らしいよ」
「な、なんでそんなに貰えるの!?」
「おトクだよね〜マジ長生きして欲しいわ」
「……おかしいだろ、そんなの」
「昔の公務員マジ最強〜」
「お前のばあさん本当はもう死んでるんだろ、それでお前不正受給してるんだろっ、絶対!!」
「なんでや」
 
 上記のような友人とのやり取りをきっかけに今回の梗概は生まれました。
 また、Twitterでゼレンスキー大統領のディープフェイク動画とされるものを見かけたので、合体させました。
 本作は本邦初のディープフェイク年金不正受給SFです。
 
 冒頭で引き込むことと出落ちは違うんだぞ、と肝に銘じ、書き出しで釣り上げます。

文字数:400

課題提出者一覧