老人と電子の海

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梗 概

老人と電子の海

ネットワーク上に第二の社会が構築されて久しい社会。売れない私立探偵の真野は、ある日隣人から彼女の祖父の捜索を依頼される。ただし、探すのはネットの中だ。彼女の祖父・テツさんは意識をネットに接続したまま一向に戻ってこようとしない。元エンジニア職だったテツさんは、ネットの世界でも巧妙に姿をくらませたまま連絡が取れないのだという。

捜査のためネット内に長時間滞在する真野。そこでは現実より仮想の社会の方に軸足を置いて活動する人々と出会うことになる。地道な聞き込み活動により判明したところによると、どうやらテツさんは亡き妻の人格がアーカイブされている《墓地》に通っており、そこで妻の過去の姿と過ごしていたらしい。しかし真野が訪ねた時には《墓地》は跡形もなくなっていた。最近は仮想空間上のリソース不足を理由に、政府と運営企業が「清掃活動」に勤しんでいるらしいと聞く。《墓地》への人格のアーカイブは公的な権利として保証されているはずだったが、記録を調べると何らかの事故としてデータの消失が報告されていた。

もしやテツさんも事故に巻き込まれたか、と真野は思ったがそうではなかった。テツさんは事故の真相解明のために孤軍奮闘しており、事故の原因がデータを捕食し、破壊する巨大な魚のようなオブジェクトの仕業だということを突き止めていた。
真野が彼の元に辿り着いたとき、テツさんは自力で「捕鯨船」を構築しており、魚退治に出ようとしているところだった。船に同乗した真野は魚とテツさんの対決を目の当たりにする。テツさんは死闘のすえ魚を見事捕獲し、船でそれを特定のアクセス・ポイントまで牽引しようとする。そこに辿り着けばテツさんと協力関係にある仮想環境保護団体のサーバ内で巨大魚の解析ができる。魚の捕食したデータの中から妻の人格をサルベージできないかどうかにテツさんは望みを賭けていた。しかし、牽引の途中で運営会社の清掃ボットたちが巨大魚にかじりつき、そのデータをどんどん消去していってしまう。ボットによって内部アクセスが容易になった巨大魚をその場で分析してみると、やはりこれも政府と運営会社が作りだしたもので、効率よく大量のデータ消去が可能なボットになるはずのものだった。それが偶発的に暴走し、《墓地》での事故を招いたらしい。

目指していた場所に辿り着く前に巨大魚は解体され、消失してしまった。だが、テツさんは急に、妻の声が聞こえた気がすると言う。真野の制止を振り切ってテツさんは船から飛び降りて行方知れずになる。途方に暮れた真野は仮想空間からログアウトして依頼人の女性にことの顛末を伝えるが、女性はつい先ほどテツさんのネット接続が切れて「戻ってきた」と真野に感謝する。依頼人に招ねいてもらい現実のテツさんに会いに行くと、テツさんは眠っていた。真野は女性にコーヒーを所望し、テツさんの目が覚めるまでの間、もう少し詳しく仮想空間内での彼の話を伝えたい、と彼女に申し出たのだった。

文字数:1221

内容に関するアピール

肉体的な制約に縛られない仮想現実の空間上を舞台に、かっこいいじいさんとさえない中年のキャラクターをうまく書けたら良いなと思いながら梗概作成をしました。できれば実作の時に展開にもう一ひねりできればと思っています…。

文字数:106

課題提出者一覧