梗 概
お弔いにはもってこいの日
星間旅行中の若者レンとカイは、とある惑星の滞在中に資金が底を尽きてしまう。二人はひとまず何とかタダ飯にありつけないかと思案を巡らせ市街を歩く。すると道中で人だかりを見つけた。見れば、観光ガイドにも載っていたこの街の市長の姿が大きくスクリーンに映し出されいる。翻訳機によると入口の看板には「葬式会場」と書かれている。式場は誰でも入ることができるようで、他の観光客の姿もあった。彼らはここで何か食べ物にありつけるのではないかと思い、ほかの客に紛れて葬式に参加することにした。
この星の住人は人間と同じ四肢をもつ二足歩行だが、肢体にはメリハリがなくのっぺりとしている。脳と脊髄を持たない代わりに人間よりも複雑な神経網が全身に走っており、その所々の節目が連携して脳の役割を果たしている。歳を取るほど肉体と神経網が発達し、身体も大きくなってゆく。年齢と身長と能力が正比例する種族なのだ。
観光ガイドの写真からも市長がかなりの巨体であることは想像できたが、実際非常に大きかった。ちなみに死因は老衰だそうだ。死人の姿を見るなんてぞっとしないと思ったが、式場の中央に安置されたそれは肉体というより小高い丘のようで嫌悪感はなかった。
式次第は案外普通で、副市長の弔辞、息子の挨拶、器楽演奏といった催しが続いた。しかし途中で会場の係員たちが参加者一人一人から何かを受け取りに回り始めた。ここで香典の徴収だろうか? 文無しの二人は焦るが、係員は彼らの持ち物を指さして、それを渡してくれれば良いという。それは移動中の暇つぶし用の映画が何本も入ったメモリだった。
式の目玉は市長の人生を振り返るメモリアル映像の上映らしかった。しかし上映はすぐには始まらず、先ほど参列者から集められた「何か」が機械に入れられていく。それは住民たちの身体の一部らしかった。彼らは肉体のごく一部を切り離すことで、記憶を渡すことができるらしい。機械がそれを読み取り、市民たちの市長とのふれあいの記憶を映像として上映していく。途中、二人が渡してしまった映画のデータも再生され、ささやかな混乱を引き起こしたが、図らずも参列者には大うけで、二人はつまみ出されずに済んだ。
一通りのセレモニーが終わったところで、参列者一人ひとりに白い包みが配られてゆく。彼らも貰えたその包みの中身は何かふわふわとしたもの……市長の身体の一部だった。同じ身体を持つ市民たちはそれをその場で自身の身体に押し合て、肉体の一部にしていた。妙にふわふわした連中だと思ったら、どうやら他人の神経を取り込むことができるらしい。そうやって死者の記憶を分け合って取り込んでいくから、死を悼む様子が希薄だったのだろうか。
二人は空腹を抱えたまま宿に戻った彼らは、データ化してデバイスに取り込んだ市長の記憶を再生しながら、なけなしの残金で買ったこの星の名産の酒をちびちびやってその日一日を終えることになった。
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内容に関するアピール
異国の地でお葬式を見かけたとき、ささやかな畏敬の念と好奇心が半々くらいの気持ちになった経験があり、知らない土地でなんのしがらみもない相手のお葬式を覗きに行く話を書いてみたいと思いました。
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