王令第四五一号

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梗 概

王令第四五一号

幼少期の祖母の葬儀を思い出す。村の女たちが集まって顔に化粧を施した。男たちによって棺の中に収められる。まるで陽だまりの花畑の中で眠っているようだったが、そっと触れた右手には温かさはなかったことを覚えている。蓋が打ちつけられて、この村のどこから出てきたのか、着たこともないような白い布が被せられて、その箱を男たちが集団墓地へと運んでいく。オルガンの演奏と猟銃による弔砲が響く。それが私ミヴァの知っている唯一正当な葬儀の記憶であった。家族はもう母しかいない。父は徴兵、祖父は徴用、二人とも”軍務中行方不明”という書類の形で帰ってきており、だから、まだ葬儀をしてはいない。

二人を弔いたい、そういう思いがあったことは否定しない。だからミヴァは終戦を迎えてからであったが陸軍学校に入学し、上位の成績で卒業した。各地での終戦処理、それは実務ではあるが事務的なものが多かった二年間を経て、次に配属されたのは陸軍法務局であった。そこでは、大戦の参戦した複数カ国にわたる講和条約と同時に周辺国も巻き込んで署名された戦争条約、それに批准するための王令の整備を行う部局であった。

戦争はまた起こる。条約は悲観的立場から、宣戦布告、交戦者・非交戦者の定義、戦地に対しての対応、捕虜・死者の扱い、利用してはならない戦術・兵器、降伏・休戦を規定するものだった。悲劇がある程度の悲劇で済むように。

だけども、それで行われたのは黒を白にするようなことばかりだ。例えば、作戦局は禁止された作戦案を合法化するように検討を重ねた。例えば、工務局は戦地の定義を迂回する方法を模索した。そして、大本の法務局は条約を最低限満たすギリギリの国内命令を規定することを求められた。

新入りのミヴァが担当することになったのは死者に関する規定だった。戦場で敵兵が亡くなった時、それ以上に遺体を損壊してはならないという規定であったり、捕虜として亡くなった時、適切な一時埋葬の規定であったり、それらを条約は求めていた。だけども、ミヴァの上官は我が国に解釈可能な形にせよ、と命じてきた。この王国にはまだ条約の定める交戦規定みたいな物はなかったのだ。

ミヴァが条文をしたためながらも引っかかった内容があった。自国民から戦死者が多数出た時の埋葬の規定だ。当然この国にはそれがまだなかった。ただそれは致し方ない側面もあった。我が国は王国であり、それは教会に立脚したものであった。教義における埋葬は遺体の一部が存在することが前提であり、そして、遺体の欠損部分が多ければ多いほど弔うために時間がかかるというものであった。だから、埋葬を規定していなかったのだ。組織としての軍は全部を資源として処理したい。戦車は動く鉄に過ぎないし、兵士は動く肉にしたい。死んだ人間は現地で肥やしになってほしいわけで、そこにコストを割きたくはない。

だからだ。戦時中に乱発されたのは”軍務中行方不明”という概念だ。大砲の弾が当たって起こることは死ではなく行方不明という言葉遊びは、戦後になって他国戦地にて家族を探したいという要求によって、方針転換を迫られていた。

戦死というカテゴリーを有名無実化したことのあるこの国に総力戦は向いていない。ならば、この立法よりも外交を勤しむ方が良いだろう。だが、その上奏は断られる。そして、早急な制定を求められる。ミヴァと同僚たちはなぜこんなにも制定を急ぐのかと訝しむ。調べると新たな”戦争”を王が計画していることがわかった。条約批准時をもって国境を固定する。領土的野心を持っているのであれば、併合と同時に批准して意見を封殺するのが良いという判断があるようであった。

ミヴァたち法務局で働く人々には、特段に終戦後軍人になった者たちほど、その侵攻計画は受け入れがたいものであった。それを関わる外局に暗にほのめかすと同意される。少なくとも関わりの深い外務省をはじめとした外局は、自分たち同様にそれを望んでいなかった。

陸軍の中でもこの部局は少し浮いているところがある。国際派、と後に呼ばれた考え方の人間が多かったところからも見受けられる。そんなミヴァたちは隣国を葬る計画が実施される前に、王を葬ることを計画し始める。埋葬法をはじめとした法整備を求められる中で教会と接触することで、王の動きの情報が得られ、計画が練られ始める。この国がこの国であるためには、王家の命脈は断たねばならない。教義を法規に落とし込む中で、未来永劫弔われることのない殺し方を浮かび上がらせる。

決行当日早朝。王城の襲撃が行われる。正門の近衛兵の武装解除が行われ、トラックが次々に内部に侵入する。非常ベルが鳴る。私たちは走る。そして、その寝室で無理矢理に起こされたばかりの人々に多数の銃弾を打ち込んだ。肉塊と再定義された彼らだったものをバラして、いくつかの薬剤入りの容器に入れて運び出す。血を始めとした体液という痕跡が付着した家具も全てを持ち出す。全ては弔われないために。そうして、日が高く昇る前にはゴミとして全てを投棄したのだ。

彼らの痕跡の一切をなくして、我々は共和制への移行を宣言する。だが、このクーデターは人々に受け入れられなかった。あれほど王家の干渉を嫌がっていた内閣も我々を認めようとはしなかった。ミヴァたちは逮捕される。そして、国家反逆罪での審理が始まる。ただ、少なくともそれは即決の審判ではなかった。規定に則り、反論の機会もあったものではあった。一年強を掛けて行われた裁判で判決が言い渡される。

そして、ひと月後に死刑が執行される。だけど、私は知っている。それを規定したのは自分だからだ。この国はもう法治で治めるしかないのだ。だからこの後のことは信頼している。私は遺体として出身地に帰る。もしかすると母は受け取らないかも知れないけども、少なくとも帰ることができるのだ。それは父や祖父よりは幸福な人生であるのだろう。そういう幸福の中、ミヴァは額で銃弾を受け止めた。

文字数:2432

内容に関するアピール

今回も前回同様に何にも思いつかなかったのですが、アピールしたいことはあったので梗概を書きました。残念ながら上の文章はその程度の品質です。今世紀中に解決したいですね……。

なので、ここからが「「「本編」」」です。

特 報

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これは正統派の弔い方の物語だ。絶対にみんな読んでくれ!! 多分、試し読みでも結構読めるはずだ!! 今すぐここをクリック!!

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読んでいくと、これもある種の弔い方に見えてくるはずだ。だって、おじいちゃんの余生が木になるんですよ??? はい。こちらも是非読んでください!!! やっぱり今すぐここをクリック!!!

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無限に買いましょう。
そして、成長をしましょう。

でも、僕はダメです。

文字数:776

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