永遠なる若さのための葬送

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梗 概

永遠なる若さのための葬送

 金属同士の激しい打ち合いの音が聞こえているが、戦場ではない。金属加工職人の工房だ。
 病身の子供の夢に現れ、「治したら何を捧げてくれる」と問い、子供が「一番大事なおもちゃ」と答えると苦笑して消えた。翌朝、子供のめざめはいつになくすっきりとしており、、おもちゃはなくなっていたという逸話がある癒やしの蛇神が国の守り神であるので、細工物は奉納品によく用いられる。ことに、この職人ヤークの工房は評判が良い。
 その工房で、農家出身の少年ヤークは修行として雑用係をやらされていた。ヤークの人使いは荒かったが、ヴェイがこっそりと鎚の使い方を真似ていると、めざとく見つけて教えてくれたりもした。弟子の中で比較的若いウーリは、ヴェイを弟のように思っているのか、勘所を教えてくれたり作業を手伝ったりしてくれた。
 今年はおおきなさいれいがあり、神殿から直々奉納物の依頼があった。飲み物を出す時意匠図をちらりと盗み見ると、木工品か石の彫り物かと思う程に繊細だった。この工房以外には注文できない、という神官の言葉に、ヴェイは嬉しくなり、少し浮かれた足取りでその場を去ろうとした。
「前回のものを埋めてしまうのは惜しいですが、仕方ないですね」
 神官の言葉に思わず足を止めた。戻ってからウーリに尋ねると、以前の祭礼で納めたものは燃やすか埋めるかで処理する、とのことだった。前回のものもヤークが作ったそうだ。職人が魂を込めて作った細工物を埋めるなんてあり得ない。感情が収まらず、帰ってウーリに勢いよく話した。
「普通の細工ものじゃないからなあ。神様のものだ。俺達の使うもんとは違う」
「そこの二人、手を動かせ。ヴェイ、報告せんか」
 一括で会話は止まった。
 町に使いに出た帰りに、神殿によって、職人見習いだが、前の奉納物を見て参考にしてみたい、と言って置かれる場所を探ろうとしたが、出来ない、とあしらわれた。それでも、と休日の晩、こっそりとヤークの家から出ようとしたが、寝部屋を出る時点でウーリに捕まった。その足でヤークのところに連れて行かれた。神殿から連絡が来ていたらしい。、厳しい表情での何故そのようなことを企てた、と言うヤークの問いに、ヴェイは言葉に詰まりながら答えた。ヤークが苦笑した。お優しい癒やしの神様だから、常に若々しくいて欲しい、お道具が古びるなんてもってのほかだ、と思ったより優しい口調で語った。 
 「まあ、俺も昔の自分の細工なんて埋めてしまいたいと思うこともあるけどな」
 ぐしゃぐしゃと、ウーリにヴェイは髪をかき回された。まったく違う、と深夜の職人街に怒号が響き渡った。

文字数:1076

内容に関するアピール

 相変わらずどこがSFだ、と言われそうですが楽しく考えられました。
地中海沿岸、ことにアフリカ大陸側は葬送と再生の儀礼が沢山あっ
興味深いです。
 以前の宝物を燃やすか埋めるかなのは伊勢神宮です。
流石に今は博物館で展示しているそうですが。

参考文献
『伊勢神宮 知られざる杜のうち』角川選書

『レバノンの白き山』未来社

文字数:153

課題提出者一覧