筋書き通りに演じて死ねばいい

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梗 概

筋書き通りに演じて死ねばいい

 IG社のノーラの創るゲームは、荘厳なグラフィックでゲーマーを虜にするが、シナリオは評判が悪かった。多くの者に推されるNPCが幾つかのシナリオで必ず死に、データが尽く完全消滅するからだ。
 マジ泣けるよ。ゲーム通のイルヴァに誘われて、エリカはVRゲーム〈バビロン〉を時々楽しくプレイしている。
 〈融合〉は全てを台無しにした事故だった。
 ニューロプラグの装着後、異様に長いロード時間を経て、エリカは〈バビロン〉に降り立った。いつものグラフィックが奇妙に壊れているバグっている。ログオフを試みると、意識復号エラーになった。
 イン表示のイルヴァからテキストが届く。IG社のゲーム統御システムに問題が起こり、全てのゲームが衝突し、〈融合〉しているという。
 ログオフ不能、動き・喋り・アバター交換等の機能停止プレイヤー、グラフィックの混合が発生中で、プレイヤーが原因を探っている。周囲では〈バビロン〉空中庭園と、別のゲーム〈ムー〉の海底が混ざって、果樹園の中を人喰いエイが泳ぎ回っていた。
 会うのを拒むイルヴァを見つけ出すと、彼女の外見アバターも崩れていた。テキストをキャラクターに変えるAIの〈Nora〉に以前と同じ依頼テキストを与えても、壊れたアバターしか返ってこない。
 IG社から音沙汰はなく、壊れた〈Nora〉だけがシステムと人々を繋いでいた。
 ゲームに不慣れなエリカのテキストの方が〈Nora〉に正しいアバターを創らせた。イルヴァ曰く、ゲーマー的にナシな組み合わせを入れるからだという。イルヴァはエリカの作ったアバターをまとった。
 〈融合〉は多くの者の機能を壊し、動きやアバター交換不能にした。ある日、二人はほぼ操作不能なドリスを救う。エリカはドリスの目線が動くのに気づく。
 原因もログオフの仕方も不明なまま、何年も経過した。十万回死んでも、何をしてもログオフはできない。
 倦怠感に包まれる人々の希望は〈Nora〉の出すアバターだった。エリカの依頼テキストに、ドリスが見たものを上手く混ぜ込むと、かつて完全消滅したはずの有名キャラが創られた。その女騎士はシナリオで必ず死ぬ。それまでは二次創作も不許可だったから、古参の者は泣いて喜んだ。
 イルヴァがアバターを着て、女騎士をシナリオ通りに、セリフも暗唱して演じきった。筋通り敵に殺された。アバターは別の者に渡り、その者も女騎士を演じ殺された。ゲーマー達は演じる様を見て、女騎士の遺影を掲げて悲しんだ。
 エリカは気づく。イルヴァがオフになっていた。エリカは〈Nora〉を使い、他のシナリオキャラも作り、アバターを配った。往年のキャラが現れるたび、皆はキャラを演じ、殺されオフになった。
 人が減ると、ドリスは口を開けるようになった。ドリスはノーラの親友で、ノーラはIG社に勝手に彼女を元にした〈Nora〉を創られ自殺した。IG社は〈Nora〉を違法に利用し続けた。資本市場からIG社は見放され〈融合〉が起こったという。
 オフになった人は、現実では目覚めていない。とドリスは言う。ドリスは〈融合〉後も生きていたノーラの端末で、〈Nora〉を葬るためにアクセスしていた。エリカはもうオフになれないのを受け止めて、皆が死ぬキャラを演じきったら〈Nora〉を消してあげてと言った。

文字数:1363

内容に関するアピール

 メタバースにおける死とクリエイターの死後労働について思いを馳せました。キャラクターの死を受け入れることが自分の死(消滅)を受け入れることと接続するお話です。

文字数:79

課題提出者一覧