千代に栄えよ
そこそこの幅がある道路の両脇に、シャッターが降ろされた建物が並んでいる。そのシャッターには、大抵不動産屋の連絡先が書かれていた。書かれていないシャッターの建物は大抵全国的なチェーン店である。
歩道にベンチが置かれたり、シャッターに小学生の絵が描かれていたり、由緒有りげなてりゃ神社があったりと、それなりに特徴はあるが、典型的な地方都市のシャッター街だ。
しかし、今日は道路際に提灯や幟と屋台が並び、道いっぱいに人が歩いている。
「毎回思うが、どこからあれだけの人間が湧いて出てくるんだろうねえ」
置かれたベンチに三人の老人が腰を下ろしており、うち一人がポツリと言った。きっちりとプレスされたシャツとパンツを身に着けている。
「このあたりだけじゃない。少し離れたところからも来るんだ、通りが埋まるくらい当然だろう」
こちらは、長着に夏羽織、前結びの兵児帯と、逆方向に服装に気を使っている。
「年に一度の祭だ、ぐだぐだ言ってないで楽しんだ者勝ちだ」
スポーツシャツに膝までのパンツの、楽なスタイルん老人がぴしりと言い切る。他の二人は目を合わせて苦笑した。
「そうだねえ。去年はなかったし。あの疫病みは」
「だから、辛気臭いのはやめろ」
マスクをしていない三人の老人の会話を、通行人や祭りの準備をする人間が気にする気配は一向にない。あまりに暑く、他人を気にするゆとりがないか、舞台の最終チェックの忙しなさか。
ひときわ暑い夕暮れ、掲げられた提灯に灯が入る。肩上げをした浴衣に結んだ兵児帯の端を、ゆうらりと揺らした幼児が金魚すくいに興じる。雑多な食べ物の匂いが混じって、食欲をそそる。
暗くなるにつれ、人々は更に増えた。三人三様の服装をした老人に気を止める者はやはりいない。
舞台でも演し物が行われ始める。この街の民謡や踊り、ここが故郷のバンドの演奏、高校生のダンス。老人達は目を細めて見ていた。
舞台での催しが一段落した頃、三方向から同じ言葉が聞こえてきた。
「そろそろか」
「ですねえ」
「やれやれ、待たされた」
三人が立ち上がった。徐々に体の輪郭が薄くなり、そして先刻からのはやし声は近づいてくる。
「ちょうさや!」
「ちょうさや!」
舞台に三台の神輿が近づいてきた。担ぎ手だけでなく、群衆からも歓声が上がる。
老人達の姿が、完全に消えた。見ている者も驚く者もいない。
神輿の担ぎ手が、汗を散らして勇壮にぶつかり合い、「ちょうさや」の声やはやし立ては最高潮に達した。
夏になればどこの街でも行われる、しかし久しぶりの祇園祭だった。
文字数:1052
内容に関するアピール
パソコンが物理的に壊れてネットカフェから投稿しています。御厨さん(和装のじいさま)あたりのバチと思われます。あとでお参りしておきます。
文字数:67