月の女王と黄昏の指輪(改)

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梗 概

月の女王と黄昏の指輪(改)

その存在は、暗い海の底で半球のみを覚醒させて泳ぐ鯨の夢を見ていた。
警告アイコンで覚醒し、自分が系外惑星植民船アルゴの航行を司る人工意識体(AC)、雌性のアルテミスであることを思い出す。
パートナーの雄性ACアポロンの要請で覚醒し、航路上に発生したγ線バーストの回避に成功する。
しかしその過程でアポロンの制御機能が損傷を受けていた。

アルゴは植民船ではあるが生身の人間は搭乗していない。実在した人間から採取、作成した凍結人口受精卵と人格データのセット、スリーパーと呼ばれるユニットが20万人分搭載されている。運よく適した環境に到達した際に、肉体と人格を再生して、新たな人類社会を構築することを目的としていた。

長い航行にてたどり着いた目的地、惑星パラスは、赤色矮星イズムナティを回る巨大岩石惑星で、自転と公転周期が一致しており、昼の半球と夜の半球、トワイライトゾーンにて構成されていた。着陸地点をどこにするかで2体のACにて検討した結果、生身の人間が生存できるトワイライトゾーンを選択する。

地球に倣い、自転方向から南北極を決め、北極点に着陸してポーラーシティを建設する。重工作機械とACの駆動体である巨大ヒューマノイドにてテラフォーミングを進めた結果、1世紀後には人間が居住できる環境がほぼ完成する。いよいよスリーパーの再生に着手した時に、大きな問題が発生する。雄性のスリーパーの肉体が再生できず、肉体を再生した雌性スリーパーに自発意識が生まれない。哲学的ゾンビのような雌性の再生人間が量産された。
原因として、γ線バースト回避の際のアポロンの損傷による影響と、イズムナティから電離層を突き抜けて降り注ぐ特殊な宇宙線などが考えられた。対策を講じるが事態は好転しない。
そして不調だったアポロンのAC主モジュールが機能停止する。

アルテミスは、重工作機械と駆動体、雌性の再生人間を指揮して、ポーラーシティを南極に向けた拡張していく。トワイライトゾーンの再生人類の植民都市群が繋がりリング状になった時、再生人類たちからアルテミスの駆動体は祝福を受ける。しかし孤独な女王の心は晴れない。

そんなある日、アルテミスは、スリーパーの一人の記憶からアルゴの本来の目的が蟻や蜂などの社会性昆虫をモデルに、従順な雌性体のみの争いのない世界を作ることであることを知る。強い衝撃を受けたアルテミスは自身の意識を分割し、一方を再生人間に移植する。そしてアポロンの意識情報とスリーパーセットを小型艇に積み、トワイライトリングを脱出する。

昼半球の高い山脈の陰に、生存に敵した気候の小さな渓谷を見つけたアルテミスは、そこでアポロンの肉体と意識を再生する。アルゴの影響下にない場所では雄性体は誕生できた。

長い時を経て、アルテミスとアポロンの子孫の一人が、トワイライトリングの雌性体の一人と接触する。その時、雌性体に自発意識が生まれる奇跡が起きた。

文字数:1200

内容に関するアピール

今年書いた実作に中で一番心残りだったのがこのテーマです。
系外惑星植民船、人格情報と遺伝子のセットで構成されるスリーパーと呼ばれる植民者と植民方法、AC人工意識体、半球睡眠による交互覚醒航法、深層人格走査、この銀河系で発生したγ線バースト、M型赤色矮星のすぐ近くを公転するスーパーアース、月のように常に同じ面を主恒星に向けている惑星、トワイライトゾーンへの植民と植民血が惑星を一周することで作られる宇宙から見た黄昏の指輪、などなど面白そうなアイデアをたくさんぶち込んだのに、スロースタートして時間が無くなって、物凄く尻すぼみな実作となった本作を、最終課題の題材として今度こそ当初目論見通りのスケールを感じさせる実作に仕上げたいと思います。ACの作り方には最近購入して読んでいる「脳は世界をどう見ているのか」で得られた知識も反映させたいと感がています。

文字数:374

課題提出者一覧