梗 概
厳粛なる来訪者
テンカカ星雲のカカランは、3百万・数量単位の「同胞」を擁する惑星である。
その首都ジラデガンの上空に、一隻の巨大な宇宙船が静止する。
漆黒の船体には、金色の装飾が施され、船首には<偉大なる帝国>の紋章が輝く。
「同胞」たちが、惑星カカランに入植して、早100万・時間単位……。
<偉大なる帝国>の<中央>からの宇宙船が、カカランを訪れたのは、およそ15万・時間単位ぶりである。
緑色の二重太陽をバックに、自分たちを睥睨する宇宙船へ、カカランの「同胞」たちは、歓呼の声をあげ、随喜に触覚を震わせながら迎えた。
宇宙船の船腹に設置された反響板が震え、荘厳かつ雅な楽曲が、カカランの大気に放出される。
同時に、カカランの貧弱な放送網の全てのチャンネルも、宇宙船に掌握され、カカラン全土の受信結晶にも、同じ楽曲が流される。繰り返し、繰り返し。
もしもカカランの「同胞」たちの第一世代が、この楽曲に接したのなら、即座に自らの運命を悟っただろう。
だが<偉大なる帝国>の<中央>との連絡が絶えて、早85万・時間単位。
世代を重ね続けた、辺境の植民惑星の住民たちに、彼らの祖先と同じ明晰さを期待するのは無理というものだ。
カカランの1自転周期分の時間単位が丁度、過ぎたとき、楽曲は静止する。
その刹那の後、宇宙船の船腹の反響板は、違った周波数の「旋律」を発振した。
、カカランの「同胞」たちの細胞壁は、その「旋律」に共鳴して、外部へ向かって決壊した。
受信結晶で、その「旋律」に接したカカランの「同胞」たちの細胞壁も同様である。
体液を撒き散らし、臓物を飛び散らせて、3百万・数量単位のカカランの「同胞」たち全ての生命活動は停止した……。
カカランの「同胞」たちの死を見届けた宇宙船は、高度を上げ、惑星カカランを後にした。
<偉大なる帝国>では、<中央>に座す<名手>が生命活動を終えたとき、<偉大なる帝国>の領域から無作為に選ばれた惑星の「同胞」たちに、<名手>の後を追わせるのが、ならわしだ。
後を追う「同胞」たちの数量単位が多ければ多いほど、その代の<名手>は、「稀代の<名手>」と讃えられるのだ。
それが、テンカカ星雲に数百兆・数量単位の同胞を抱える<帝国>の<中央>より派遣された”殉死船”(じゅんしせん)の役目だった……。
”殉死船”の超空間受信結晶に、<偉大なる帝国>の<中央>より、連絡が入る。
わずか1千・時間単位前に、代がわりした<名手>が、幼くして、生命活動を停止したとのことだ。
「<名手>のために、より忠勤に励まねば……!」
今や先々代の<名手>の偉大さを讃える記念碑と化したカカランのことは、記憶野の片隅に追いやり、”殉死船”の人工知能は、新たな使命に取り組むことに、恍惚となるのだった……。
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内容に関するアピール
今回の課題×よしながふみの『大奥』×筒井康隆の『パブリング創世記』×最近観た映画『特「刀剣乱舞 花丸」華ノ巻』が、わたしの頭の中で、「悪魔合体」した結果が、本作です。
「結局、駄洒落オチかよ!」という辺りも含めて、今の自分の精一杯です。
三回連続で、課題を落とさなかったことに今はただ安堵しています。
実作に仕立て直すときは、「謎の宇宙船への住民のリアクション」「帝国の政情」「殉死船の心情(?)」などを書き込むつもりです。
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