梗 概
ぬいぐるみと駆け抜けよう、古代宇宙遺跡
高校デビューに失敗した上戸杏奈(うえと・あんな)は、不登校に陥り、ここ数ヶ月、自室に引きこもっていた。仕事が忙しい杏奈の両親は、彼女の食事の世話を、家政婦AIに任せ、自宅へは、ろくに帰ってもこなかった。
情報端末でオンライン・ゲームに、日々、興じる杏奈。
ある夜、ゲームの最中、寝落ちする杏奈。目覚めると、亡き祖母の手作りのぬいぐるみの一体が宙に浮かび、杏奈を見下ろしていた。
その猫のぬいぐるみは「ピート」と名乗る。
「自分は地球外の生命体で、古代ネバラ文明の遺跡を、単独で調査中の考古学者である。遺跡を囲む《門》の一つに間違って触れたら、ここへ墜ちていた。とりあえず、かりそめの体として、手近な無機物に浸透し、語りかけている。遺跡の入口は、何故か単独では通れない。手助けして欲しい」
杏奈の答えも待たず、パジャマ姿の彼女の手を引き、部屋の天井に開いた《門》をくぐるピート。
数瞬後、《門》から飛び出す二人。
紫色の空の下に、そびえ立つ古代ネバラ文明の迷宮遺跡群。曲線が主体の遺跡は、地球のそれとは、明らかに異なる設計思想なのが伺える。
入口を抜け、遺跡に潜る二人。
水攻め、チクタクと吠える宇宙生物、片手が光線剣のヒューマノイド型の金属生命体の襲撃などを協力して切り抜ける二人。
引き籠もり生活のせいで、体力が落ちていた杏奈は、当初は気息奄奄、ピートに罵詈雑言を浴びせる。だが、途中から何だか楽しくなってくる。
やがて迷宮の最深部に到達する二人。
最深部の部屋には、多面体で構成された立体的なパズルで封印された球体が鎮座している。
「古代ネバラ文明の秘宝に違いない!」
と驚喜するピート。
苦難の末、杏奈がパズルを解き、封印を開放すると、球体が真二つに割れ、室内は光に満たされる。
陽気な音楽が鳴り響き、天井から紙吹雪のようなものが舞い落ちてくる。ひとしきり、それらが続いた後、部屋は元に戻る。
二分割された球体は元に戻り、床には何も落ちていない。
まるで時間が巻き戻されたような……。
唐突に、杏奈は、ここが古代の娯楽施設だと悟る。これまでの障害はすべてアトラクションだったのだと。多分アベック向けの。だからピート単体では、入口が開かなかったのだ。
ピートの文明では、娯楽という概念が絶えて久しいので、杏奈の説明を聞いても完全には理解できない。
「物質的な成果を伴わずして、何の利益があるのか?」とピート。
「楽しいって気持ちが、宝物になるんだよ」と答える杏奈。
《門》を抜けて、杏奈の部屋に戻るピートと杏奈。
ぬいぐるみから抜け出すピート本体。アメーバーのような液状生命体。地球の大気中に長時間いると、揮発してしまうのだという。
《門》をくぐるピート本体。彼が通り抜けた後、天井の《門》は消滅する。
ピートが抜けた、ぬいぐるみを抱えた杏奈が、ぽつりとつぶやく。
「明日は学校に行ってみようか」
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内容に関するアピール
課題:誰もが知っている物語をSFにしよう(2016年第4回)
幼い自分が、初めて観た芝居が『ピーターパン』でした。
今回、「永遠の少年」という存在を、SF的に成立させるための理屈を13個考えましたが、どれも月並みに思え、煮詰まりました。
”これでは『超人ロック』や『地球へ』じゃん”と。
そんな困ったときの猫頼み。
しかし「猫型の宇宙人」というネタは、前回の梗概でやってしまったので、今回は、宇宙人を、猫のぬいぐるみにしてみました。
猫である必然性?
他の動物では、私のモチベーションが上がらないからさ!(苦笑)
どうせ月並みならば「宇宙のインディ・ジョーンズを気取る猫(のぬいぐるみ)と女子高生コンビが、超古代文明の遺跡を駆け抜ける」冒険エンタメにしてみました。
ラストは「冒険を経たヒロインが、新たな一歩を踏み出す」という原典の終盤を、私なりに踏まえたつもりです。
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