梗 概
杉田+杉田≒杉田
申し訳ありません。手違いで、あなたは二人になってしまいました。
ベッドで目覚めた杉田智隆はそう伝えられ、面食らった。眼の前には自分がいる。最初は鏡でも置かれているのかと思ったが、キョトンとしたその表情は、鏡に写ったそれではなかった。
脳チップの劣化に伴うダンプ・移行作業と、ついでに身体のメンテナンスも兼ねた軽い手術の予定だった。ところが、施術前の停電、復旧手順の錯誤、担当医の引き継ぎ失敗、二重発注、さらにたまたま余剰在庫のあった身体と天文学的な確率でミスが重なり、いま杉田は、杉田Aと杉田Bになってしまった。
「まいったな。お前、もしかしなくても俺か?」
杉田Bから声を掛けられる。オタクっぽい話し方まで自分そっくりで、気持ちが悪い。どちらが杉田Aを名乗るかでかなり揉めたが、ジャンケンで勝った方が杉田Aとなった。あくまで便宜上の問題であると納得させるのにかなり苦労した。面倒くさい性格までそっくりだ。
病院からは散々謝罪された。マージ作業の準備に少なくとも3日はかかるらしい。その程度であれば差分も少ないため、マージはどちらの人格も損なうことなく行えるとのことで、二人は状況を受け入れて帰宅した。家では妻のチカが出迎えてくれる。電話で既に状況を聞いているはずが、杉田AとBがノシノシ帰ってきたせいでかなり心配する。その日は焼肉で、杉田ABによる肉の争奪戦になった。
翌日、杉田AとBは再びジャンケンをする。杉田Bが仕事当番である。思いがけずヒマになった杉田Aはどこか遠くに行きたかったが、差分を大きくしすぎるとマージに支障が出るため、チカと喫茶店へデートをしにいく。久しぶりのデートを楽しむ二人。
さらに翌日、交代でAが仕事をしていると、なんとBが一人で高級ディナーを食べて帰ってきた。仕事中にデートに行かれたことが不満だったとBは言うが、Aと言い争い、やがて取っ組み合いの喧嘩に発展する。お互い完全に記憶を共有しているので容赦のない黒歴史暴露大会となる。墓まで持っていくはずだった恥ずかしい思い出の数々が露わにされていくなか、止めに入るチカ。差分が大きくなりすぎるとマージが難しくなるため、やがて喧嘩は収まる。頭を冷やしてくるといってAは外に出ていってしまうが、しばらくして帰宅する。
その日の夜、マージを前に杉田AとBは子供のころの記憶を語り合う。小学校の喧騒、初恋、よく行った公園、そして父と母の柔らかな視線。自分自身と会話をする不思議な感覚。そして、チカを大切にしてしっかり生きていこうと夜を徹して話す。
マージは無事に終了した。3日間の記憶が重合する不思議な感覚。マージされた杉田は、Aが実は喧嘩後に一人で温泉に行き豪遊したこと、そしてBが高級ディナーを実はハシゴして申告の三倍もお金を使っていたことを知る。両者の行いに憤慨する杉田だったが、どちらも自分だったことを思い出し苦笑いするのだった。
文字数:1196
内容に関するアピール
テーマは2017年の第五回「エラーが/から発生するストーリーを創作せよ」を選びました。
何かフックのある事件、どんなミスならば面白いだろうかと考え、自分を二人にしてしまう案を思いつきました。もし私自身が二人になった場合、おそらく性格的には仲良くはなれません。同一人物同士の喧嘩を、勢いのある書き方で転がせればと思います。
よろしくお願いします!
文字数:170