幽霊ポピュリズムからの脱出

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梗 概

幽霊ポピュリズムからの脱出

ある日突然、世界中の人間の頭の上に数字が浮かび上がった。各人一桁から何億何兆にもなるばらばらな数で、細かく変動し続けている。研究が進められ有名人ほど数値が多いという傾向が見られたが、規則性や原理は不明だった。
ある研究者が言った。「死後の幽霊がその人を見ている数なのではないか」 一笑に付されるも、研究者の数字は会議室をはみ出すほど一気に増えた。正解を祝福しているようだった。
人は死ぬと幽霊となり、特に成仏もせず現実の生者を一人選びその視点を見るらしい。それは魂だけの存在となった彼らの唯一の娯楽でありその同時接続数が生者にも見えるようになったのだ。この現象は幽霊との接続ということで、幽チューブと呼ばれた。
幽霊はコメントも呪いもしてこないが、同接数の可視化は世界を変えた。
政治家はもはや選挙前から人気が数字が出てる。討論してもどちらが応援されてるか明らか。アイドルも常に総選挙されている。というより全人類が強制的に見られる存在に。多くの人間は幽霊の同接数を魅力度と捉え、人気あげようと試行錯誤を繰り返す。プライバシーは消え去った。嘘も不倫も幽霊には人気コンテンツ。殺人事件が起きれば幽霊が犯人の視点を見たくなり同接が増えてバレる。人は幽霊に支配された。

そんな世界で、同接ゼロを達成した男がいた。引きこもりニートの根津である。毎日起きて食べてネット巡回して寝ての繰り返し。先祖すら面白くないと見限った。びっくり人間として取材を受けその度に少し同接は増えるがつまらない生活を見てすぐ去っていった。
根津はある日、手紙で近所の寺に呼び出される。そこには幽霊支配からの解放を目指すレジスタンスがいた。リーダーの青原は元人気アイドルで同接数を上げることに勤しんでいたが、虚しくなり本当の自分との乖離に悩んでいた。彼女たちは演説や除霊などを試みたが効果がなく、そこで幽霊人気皆無の根津に目をつけたのだ。「趣味は寝ることです」同接ゼロらしい自己紹介をしつつ根津はレジスタンスに加わる。
自分が来たくらいでそんな影響ないだろと思っていたが、どんどんメンバーの同接は下がって行った。幽霊たちはレジスタンスというグループ活動を楽しんで見てたが根津が来て人気が下がり、特に青原の追っかけ幽霊にとっては根津との絡みは寝取られにあたるということで大量に除霊された。
根津は傷つきつつも、組織の活動を楽しんでいた。青原も異常に他人に見られていない根津に惹かれていった。そして青原は最強の除霊方法を提案する。生者にあり死者にないものは肉体。肉体を楽しもう。二人は性行為をした。それは幽霊に対する肉体マウンティングであり、誰にも見られてこなかった根津と常に見られてきた青原が、二人で見合うということだった。
そして子どもが産まれ頭に数字がともる。二人は満足した。自分たちもいつかその数字の一つになるのだ。

文字数:1182

内容に関するアピール

死を思うという真面目な課題に応えて深いこと言いたいという気持ちとギャグをやりたいという欲望がぐちゃぐちゃになって気づけばこんな話になってました。

結果良さげな設定ができた気がしたのですが、色々できすぎて具体的にそれをどう物語にすればいいか難しかったです。

文字数:126

課題提出者一覧