宍戸ハルは死んだ父の火葬場で遺骨に交じって黒真珠を見つける。
久方ぶりに実家に帰り荷物の整理をしていると、しばらく疎遠にしていた父が生前、新興宗教にハマっていたことを知る。一本気で乱暴な人物像しか覚えてないハルからすると、何かに依存している父の姿は想像がつかなかった。
そこに、宗教団体から父宛に荷物が届く。何かと思い開けてみるとそこにはおそらく献金のお礼と思われる手紙と白いマリモのような拳大のフワフワが入っていた。
微かに脈動しているフワフワはおそらく生き物かと思われるがハルはそのようなものを見たことがなかった。
とりあえず連絡をしようと携帯を取ろうとしたとき、ポケットから落ちた黒真珠がフワフワの上に落ちた。黒真珠は見る見るフワフワの中に沈んでいき、脈動は突如として止まった。
得たいもしれない不気味さを感じたハルはフワフワをリビングに放置しその日は就寝する。
翌朝、リビングにはフワフワが変態したかに思える直径２０ｃｍほどの輪があった。５方向に延びた硬質化した爪がリビングの床に食い込んでいる。
また、輪の中は白飛びしたように真っ白でそこにあるはずのリビングの床が見えなかった。
あまりの不気味さに台所から包丁を持ってくるも流石に思いなおし、手近にあった定規で穴の中を突っついてみると、確かに床面の固さが伝わってくる。
次は手袋をつけて直接穴に手を入れてみる。すると確かに床に触れているはずなのに穴の中から何かが手に触れる感覚がした。
驚いて飛び退き、包丁でフワフワを細切れに裁断する。
ピンっと張っていたフワフワは見る見る萎縮していき小さくなってしまった。
一瞬のことで確信は持てなかったが、自分の手に触れたのは父のごつい手のような気がしてならなかった。
ハルは友人の記者、ナナマチに自分の不思議な体験とフワフワの死体を見せる。
ナナマチ曰くハルの父親がハマっていた新興宗教は死後転生を売りにしているらしく、献金額に応じて転生の秘薬が入手できるともっぱらの噂とのことだった。
ナナマチがフワフワの死体をペンでいじくると中には電子回路のように複雑に入り組んだ黒い線があった。ハルはそれが自分の落とした黒真珠のような気がした。

虎穴に入らざれば虎子を得ず、とハルとナナマチは宗教の本山を訪ねる。
そこで二人は、黒真珠が秘薬を摂取した者の脳内にできる魂の複写装置で、フワフワが作る転生輪によって肉体のない感覚、魂魄のみが生成された者に成れることを知る。
父の献金額だと拳程度の再現しかできなかったが、大きいものだと全身を再現できるという。
図らずも転生した父を殺してしまったことにハルは悲しみを覚えると同時に、死んでも力でしか何かを伝えることをできない父、拳程度の復元しか許さない宗教に怒りを覚えた。
やぶれかぶれになり、施設内を荒らしまわって転生の秘薬を見つけるとそれをがぶ飲みする。
錯乱した友人の様子に恐れおののくナナマチにハルは自分の黒真珠をフワフワに入れてくれと言い、その場で自殺する。
若干頭のねじの外れていたナナマチは友人の想いを受け、その場で黒真珠をハルの頭から取り出すと施設内で一番大きいと思われるとフワフワに埋め込む。
足元いっぱいに大きく広がったフワフワの輪の中はハルの感じていた怒りによってあつく燃え滾っていた。
決して燃えることのない感覚だけの炎は本山全体に広がり中にいる何もかもを見えない炎で燃やし続けるのであった。