梗 概
粗鬆
古参ネトゲ「トリポレ」は第二次リニューアルアップデートを迎えることになった。プレイヤー数の減少に伴い第一次リニューアル時に実装した共闘NPCのAIを最新版に変更し、
NPCとでもリアルなコミュニケーションを提供できるようにしたのである。
しかし、新規顧客開拓を目的とした第二次リニューアルは既存プレイヤーの反発を招いてしまい、意見交換サイトの「フォーラム」は大荒れとなってしまう。
第一次リニューアル時に実装されたAIは過渡期のもので、たどたどしい言葉遣い、不自然な会話の流れ等から実装時は厳しい意見も多かったが、
いまではその未完成さが愛嬌となっており、特に、プレイヤーが多く集まるコアタウンにいる「マルティ」はいかつい風貌とそれに似あわない可愛らしい単語チョイスから名NPCとして名を馳せていた。
第二次リニューアルの速報と同時に公開されたのは、そんなマルティーが打って変わって精悍な言葉遣いとともにテストプレイヤーと言葉を交わす、プレイヤーとゲーム運営陣の意識が以下に乖離しているかを表すものだった。
フォーラムの管理を主業務とするコミュニティチーム長、久保井はプレイヤーの反発を上長に報告するも、細々とした売り上げしか伸びない現在の「トリポレ」の大幅刷新を目標とする運営上層部は、頑としてその方針を変えようとしなかった。
そして、リニューアル当日、個人用アカウントでログインした久保井が見たのは「ゲットバックマルティ」をオープンボイスチャットで垂れ流しながらエモート「祈り」をただひたすら繰り返すプレイヤーたちの塊だった。
リニューアルに伴って打ち出した各種キャンペーンに釣られた新規プレイヤーたちも、コアタウンにて繰り広げられる異様な光景を見てたじろいでいるのを見て、久保井は早急な対応が必要であることを上層部に再び進言するも、
全く取り合ってくれないどころか、むしろ炎上を沈下させるのはお前だと叱責をくらう始末だった。
このままではゲームどころは自分の職が危機だと感じた久保井は、運営からのメッセージとして一つのスレッドをフォーラムに投稿する。
曰く、「マルティ」のAIを構成しているソフトは既に開発環境が終了してしまっておりこれ以上のアップデートが困難であること。
プレイヤーにここまで愛されているキャラクターであることを運営がきちんと受け止めていなかったこと。
このまま何の更新もなく錆び付いていくマルティを見続けるのは忍びないため、あらためてプレイヤーたちでマルティを送り出してほしいこと。
どれもこれも嘘八百だったが、プレイヤーたちにすんなり受け入れられた。
固執していたように見えてプレイヤーたちもどこかで限界を感じており、この提案はまさに渡りに舟だったのだ。
かくして、コアタウンの外れにマルティ記念碑が立てられ、ユーザー参加型イベントの「葬式」が開かれる。
新規配布された「散骨」エモートでお互いに骨粉を振りかけてじゃれあうプレイヤーたちを見て久保井は何とも言えない気分になる。
三か月後、「トリポレ」サービス終了の一報が流れることになった。
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内容に関するアピール
ゲームキャラクターの葬儀物…プレイヤーたちがキャラを弔うとしても、よっぽど好きもののファン同士で固まらないときちんとロールプレイできないなと思って書きました。
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