梗 概
塔のある星の話
エイセイに住む僕達の仕事は、白いキューブを使って、巨大な塔を作ることだ。
白いキューブは、ワクセイから船で運ばれてくる。キューブは多い時もあるし、少ない時もある。白いキューブは石のようだが柔らかく加工しやすい。少し削って形を整え、それで塔を作ったり、古くなった箇所を修繕したりする。
キューブを引き取ると、ワクセイの人は少しのお金をくれる。でもエイセイでは特に使い道がない。
エイセイは小さいけれど、あちこちに泉の湧く、緑豊かな星だ。気候も温暖で、食べ物にも困らない。一年中花が咲き乱れ、あらゆる生物が生を謳歌している星だ。
その星の中でも最も美しいと言われる場所に塔はあった。かつて、ワクセイを支配していたとても偉い王様と妃が眠る土地に建てられた、巨大で美しい塔だ。
昔々、王様は美しいエイセイをとても気に入って、自分が亡くなった時はこの地に埋葬して欲しいと遺言を残していた。その言葉通り、 王様と妃は、エイセイの最も美しい場所に埋葬された。そしてもう一つ、王様は遺言を残していた。寂しがり屋だった王様は、国民が死んだ時には、その遺体をキューブにして自らの霊廟である白い塔の一部とするよう命じていた。
それ以後、ワクセイの人は死ぬとキューブにされて、白い塔の材料とされるようになった。
その物語を聞いても、誰もキューブを気持ち悪いとは思わなかった。エイセイに住む人々は、生も死も、一つの流れの中での事象に過ぎないと考えていたからだ。
そんなある日のこと。
いつもと違う船がやって来たかと思うと、いきなり塔を砲撃して破壊した。
彼らは「ワクセイの革命家」だと名乗り、「エイセイの人々を解放する」ために来たのだと言った。
その革命家達を追って、今度は武装したワクセイ軍がやって来た。革命家もワクセイ軍も「あなた達のため」と言ったが、どちらが正しいかなんて僕達にはわからなくて、両軍が激しい戦闘を繰り広げる中、怯えながら逃げ隠れる日々がしばらく続いた。
戦争は、革命軍の勝利に終わった。
僕達がようやく外に出て見ると、美しかった景色は一変していて、森は焼き払われ、泉は化学兵器の使用によって汚染され、あれだけいた生き物の姿はなく、代わりに死体がゴロゴロと転がっていた。
彼らが言うところの「塔を作る苦役」から僕達は解放され「めでたく」ワクセイの住人になるためエイセイから連れ出された。その代わり、夥しい数の遺体は、この星に放置されることになった。
ワクセイに向かう船の中で、革命軍の男が、お前達の星がなんて呼ばれていたか知っているか? と聞いてきた。
「テンゴクだよ。テンゴクに行けなくなると言っては俺達を縛り、死んでもキューブになって王のために使われる。しかもお前達をただ働き同然で使って。それでテンゴクだとさ」
男は笑ったが、僕はどこが面白いのか少しもわからなかった。
文字数:1180
内容に関するアピール
美しい霊廟のある話を書こうと思いました。
どんなに美しい遺跡も、その下には残酷な事実があり、その二面性が表現できればと思います。
文字数:63