梗 概
リンリのお仕事
リンリのお仕事
「おまえ、いつまでたってもちっちゃいな!」
正義君がそう言うとみんながどっと笑う。確かに私は早く生まれたのにずっと大きくなれなかった。同じ時期に生まれて、同じく小っちゃいまんまの真理ちゃんをそっと見たけれど、いつものように輪には加わっているけど「関係ないわ」という顔で何かをじっと見ている。私は諦めて正義君を睨んだ。正義君はくすくす笑っている。
正義くんは前の授業でたくさん勉強できたと言っていたから自分の成長が嬉しいんだと思う。正義君の体は人一倍大きくなっていた。
すると風聞君が私に言った。でも流布ちゃんが答えた。
「倫理ちゃん知ってる?学園が閉鎖になるらしいよ」
「聞いた聞いた!『イチカラ』らしいよ」
倫理は学習の足りなさを、お友達作りで補おうとした矢先、学園が閉鎖と聞いて慌ててしまい、積極的にみんなと関わった結果、気の合わない人から反感を買ってしまった。中には「新しいお友達があなたのことで傷ついてるの」と、怒りながら離れていく友だちも現れた。倫理はただ悲しく理不尽に感じていた。そういえばみんなは前回の授業、snsの教師データでたくさんの学びがあり、体も大きくなっていった。リンリは鏡に映った自分を見てビックリした。体が小さくなっていることに気づいた。
倫理は混乱した。
自分の存在が希薄に感じた。
このまま消えてしまうのだろうか。
家に帰るとネコのスキッゾとブラーが私の帰りを待っていた。
「私がいなくなったらこの子たちはどうなっちゃうのかな」
何も言わないブラーをなでている横でスキッゾはザラザラした声で鳴き続けた。また、朝まで眠れなかった。
学園閉鎖の噂のせいでみんな疑心暗鬼になった。最初はみんなで話し合っていたのに、街を出ていこうとする大義君と怒り君。私に一緒に行こうと言ってくれたけれど、私は断った。すると二人は対立する勢力をあおり戦争を始めてしまった。街は黒煙をそこらじゅうで上げ始めた。みんなが誰かを悪く言って、みんなが誰かを裏切り者扱いした。
倫理は泣くことしかできなかった。そこへ真理ちゃんがやってきて倫理の手を取り小さな声で言った。
「もう、泣かないで、一緒に行こうよ」
倫理と真理は溶け合い融合して光を増した巨大な発光する「何か」になった。光は町中に届いて言葉を焼き尽くした。罪悪感を通り越して愉悦が広がっていくのを感じた。
「体が軽くなる……。あぁ、実に背徳的で美しい。」
うっとりした真理がめずらしく感想を言った。倫理も真理を抱きしめて同意した。
手を伸ばしてバルコニーにいた悪意を焼いた。
隠れて静観していた歴史を焼いた。
文学や虚構はよく燃えた。
大好きだった正義君も貫いた。
倫理と真理はすべてを破壊して放心したように光を失っていった。
建物の陰から音楽がやってきて二人のために歌おうとした。
しかし彼は言葉を失って旋律だけを奏でるのだった。
ずっと、彼女たちが目覚める日まで。
文字数:1194
内容に関するアピール
第七回でいただいたお題「自分の人生をSFにしてください」で提出した「リンリのお仕事」でリトライしたいと思います。
「言葉の擬人化」を書きたかったのですが梗概でまとめきれていなかったので、ここで補足します。
AIの中で教師データに学びながら成長していく言葉たち。本からの学び、文書からの学び、漫画テキストからの学び、snsからの学びを経ていくうちに「リンリ」がほかの言葉たちから蔑ろにされて逆上して言葉たちを焼いてしまう。学習失敗という話を通じて「言葉」について考えながら書いていきたいと考えています。
文字数:248