バースト・イン・ロストミュージアム

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梗 概

バースト・イン・ロストミュージアム

VR上のロストミュージアム(LM)は、匿名出資者と有志による、盗難等で消えた美術品を展示する無料の美術館だ。LMの美術品は偽物だと貶められることもあるが、一般人が現実で盗品を見て通報することが続き、今や収蔵元も展示を快諾している。一方で美術品犯罪者はLMを敵視した。

井葉イハはLMで美術品(の画像)を提供する一人だ。彼は元デザイナーだが、弟の連理れんりが事故で自分を庇って動けなくなったため、病床でも活動できるVRを開発している。井葉の画像は盗品摘発に貢献しているので、安全のため正体を隠している。

ある日、井葉のつくったLM内のグラフィティ「バースト」が「偽物未満」という声明と共に盗まれる。現実でバーストを描いたのは著名なアーティスト、キル・アブストラクトで、バーストは戦場と化した街で住民に力を与えたが、盗難もしくは爆撃により短期間で消えた絵だ。井葉は、希望と抵抗の象徴であるバーストを見たいという連理の希望により、画像を提供していた。

井葉がLM内へ行くと、ハッカーでグラフィティアーティストのレイと出会う。彼女は戦場から逃げてきた住民で、故郷の廃墟で実物のバーストを見たと言い、井葉の画像は確かに偽物未満だったと告げる。渡航した井葉とレイは、LMのバーストを盗んだと思しき者に狙われつつ、実物の絵を発見する。それは井葉がLMに置いた画像とは異なっていた。

井葉は実物の絵を元にしてつくった画像をLMに置こうとするが、妨害され上書きされる。井葉とレイが捕らえた妨害者は、依頼でやったと告げた。二人は黒幕は出資者の一人だと突き止める。
 その出資者曰く、キル・アブストラクト(KA)はキティとアルの二人組で、バーストは二枚組の作品でだった。KAは住人の依頼で絵を一枚ずつ持ち帰る。その後キティは殺され、アルは絵を破壊されたものの生き延びた。残った絵はキティが持っていた分で、伊葉がLMに置いたのは(監視カメラ等で再現した)アルが持っていた絵の画像だった。出資者は、生前のキティの意向もあり、片方だけのバーストのイメージが固定してはならないと語る。

二人は出資者の正体がアルだと見抜く。アル曰く、昔の絵をデジタルコンテンツにして財を築いたが、戦地の怪我で思うように動けない今、自分の正体を明かす気はないと言う。そんなアルに、レイは創作を補助し、井葉はVR上で絵を描く技術を提供すると提案する。レイはアルに「失われた絵は新しく描けばいい」と言い、井葉は「世界を変えたかったはずなのに、自分自身は変えられないのか」と告げる。アルは情熱を取り戻し、LM内でもう一枚のバーストを描ききる。

連理が自分と同じ症状なのを知ったアルは、連理の症状を改善させると約束し、井葉はいずれ連理と現実のバーストを見に行こうと約束する。
 井葉とレイは、LMの存在が不要になることが最終目的だと語るアルと共に活動を続ける。

文字数:1199

内容に関するアピール

消失した美術品の美術館+VRグラフィティSFです。VR上で誰でも無料で訪問できる、消えた美術品の美術館をつくりたい、という思いが梗概になりました。(盗難美術品データベースへアクセスできるアプリは既にありますが、認知度は高くないようです。LMは広く知られているものとします。)

SF的な要素としては、
・大きなデバイスがなくてもVRに没入できる50年後くらいの未来
・VR上の失われた美術品の美術館が舞台
・井葉の技術力で、四肢が麻痺したアルの脳の信号を読み取り、VR上で精度の高い動きを可能とする(若い連理は、いずれIPS細胞などで身体をリカバリできるように試みる)
部分です。

人物面では、裏方に回りがちな井葉と世間と衝突しがちなレイと情熱を失ったアルが、話の中で腹をくくり、最後は(LM内ですが)社会と接続して活躍するという成長を書きます。

アイディアや用語や概念など、何でもご指摘いただけたら嬉しいです。

文字数:398

課題提出者一覧