梗 概
GAME IS OVER
網膜デバイスに表示されたのは見慣れた表示。ハルは見知らぬ部屋で目を覚ます。
白で統一された簡素な部屋。形だけで整えられたビジネスホテルのようだった。
老人は、新入り、死んで起きた気分はどうだ。と、仮想空間での死を知っているかのような口ぶりだ。
ファリアと名乗った老人は、もうずいぶんとこの領域ℍ仮想ヒルベルト空間にいると語る。
網膜デバイスに再開のアナウンスがあった。
ハルはゲーマーとして仮想ヒルベルト空間の攻略を試みる。
ファリア曰く、現実に限りなく近いが、現実と異なる空間だという。
数年前、新型ウィルスの特効薬を仮想近似空間から持ち帰った物理数学者ヒルベルトの考案した空間であることから、仮想ヒルベルト空間と呼ばれているそうだ。
我々をこの場所に閉じ込めた人間からの連絡はなく、ただ仮想ヒルベルト空間に潜っては死ぬことを繰り返させられているという。「攻略しろということだ、プロゲーマー」あざ笑うように老人は言った。
ハルは、現実と異なる箇所がわからなければ自死し、次の機会を待つトライアンドエラーを繰り返していた。
何度も繰り返す中、行き詰まり死のうと諦め、自死を試みた。そこを、エデと名乗る少女に救われる。
エデは、リセマラの最中、何度もその姿を見かけている。空間におけるプレイヤーの救済措置。
ファリアも、エデについては言及していた。その外見は異なっているが、役割は同じ。プレイヤーに寄り添い、攻略の補助を行う。これがRPGであれば、集めるべき仲間の一人目ということになる。
ハルは自死した。白い部屋に戻る。いつものベッドで目を覚ます。
セーブポイントのようだと、思い始めたのは少し前からだった。
この白い部屋もまた、精巧に構築された仮想空間ではないかと疑い始めるとそうとしか考えられなくなった。
窓からは中庭が見え、空も見える。ここから飛び降りたらどうなるだろうか。
ハルは、その直感に従って開け放った窓へ向かって走る。 窓から飛び降りた瞬間、ハルは再びベッドの上で目を覚ました。
ファリアを問い詰めるべくラウンジに向かったが、そこに老人の姿はなかった。 代わりに、一人の少女がいた。エデだ。
とっさに、ハルは身を翻し、近くの扉に手を伸ばす。開いた。 そこでは、見知らぬ女が眠っている。その脇を駆け抜け、窓から飛び降りる。再び、ベッドの上に戻った。
ハルは急いでベッド動かし、バリケードとして扉の前に立てかけた。 背後で窓が開く。エデがいた。
そのとき、網膜デバイスに再構築のアナウンスがあった。
ハルの目の前にはエデがいた。 逃げ切ったと思ったが、その先の空間で捕獲されてしまった。
ハルの手足は動かない、それどころか、手足は人間のそれではなく、機械で造られている。
BMIどころではなく、機械の体のなかに、ハルはいた。ハルは自分こそがNPCで、エデこそがプレイヤーなのではないかと問う。
機体が青く光る。文様を帯びて、生き物のように駆動する。このシステムはすでに知っている。脆弱性も。自在にコントロールを奪い、鋼の腕は壁を突き破り、部屋の外へと出る。
システムをハッキングした結果、ここは地下深くの研究施設だとわかる。エレベーターホールを突き破り、地上まで這い上がる。
地上には人間が群がり、何事かとハルをみる。その先に、一つの銅像がたっている。見知った老人の銅像だ。
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内容に関するアピール
ここ最近はAIが自動生成し、それをいかに制御するかが問われている。
コンテンツは市場に過剰にあふれ、娯楽は数え切れないほど提供され、可処分時間の奪い合いとなっている。
人は、コンテンツを消費しているのか、消費させられているのか。 本当に僕たちは、テレビを見て、NETFLIXをみて、SNSを監視し、ゲームを遊び続けることが必要なのか。ではなぜこの行為をやめられないのか。 人を夢中にするものとはなにか。
人の欲望の際限のなさとはなにか。
話はゲームのお話。
海外における仮想世界の物語は、「マトリックス」「インセプション」「アサシンクリード」のように、人間の内面・過去に触れるものとして描かれる。
一方で、日本の「SAO」のような作品は、仮想世界をもう一つの現実、ありえた可能性として描かれる。
前者の方が崇高で文学的に思えるが、そんな世界に殴り込みをかけたいとか思っていました。
最終的には、面白い遊戯をしようぜ、人間!というお話にしたいな。と思っています。
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