梗 概
タイムマシン
妻を事故で亡くした私は、タイムトラベラーの屋敷を訪れた。タイムトラベラーが持つタイムマシンを使って妻を助けに行くためだ。タイムマシンは人間の意識だけを未来や過去に送れる、頭につける小さな装置だ。私はタイムマシンを使って時間を遡った。
朝だ。家に妻がいる。妻は俳優で、その日は公演があった。公演の最中に妻はステージから転落して死ぬのだ。公演を休めとは言えなかった。俳優として活動するのが妻のアイデンティティだからだ。転落に気をつけるように言って、気が気でないので公演を観に行くことにした。
公演が始まった。偶然にも妻が出ている演劇は、タイムマシンが出てくる作品だった。妻は物語の中で転落によって死んだ。これではまるで、この作品を私が追いかけているようではないか。
結局その日妻は死ななかった。
数日後、タイムトラベラーに感謝を伝えるために屋敷を訪ねた。屋敷の内装が前に来た時と違う。タイムトラベラーはこれから模様替えを行うのだろうか。現れたタイムトラベラーの見た目は全くの別人だった。タイムマシンなんてものは存在しない、タイムトラベルしたと思い込んでるだけなのだと言った。しかしそうするとこの未来の記憶はなんなのだろうか。
家に帰ると私の部屋にタイムマシンが置いてあった。なぜあるのだろうか。タイムトラベラーの屋敷に返しに行こうと思ったが、彼はタイムトラベラーではないのかもしれない。私は何が起きているのか分からず途方に暮れた。
家に帰ってきた妻は様子がおかしかった。私が不倫をしているのだと言う。そんなはずはないのに。
未来に戻ろう。タイムトラベラーなら何が起きているのかを知っているはずだ。私はタイムマシンを頭に装着して、未来に時間を設定して装置を起動しようとした。
その瞬間何かがおかしいことに気がついた。タイムマシンとはフィクションの中の存在ではなかろうか。私はどうしてそれに気がつかなかったのか。そうするとこの装置は何なのか。私は妻に全てを話すことにした。
「あなたは私を大切にしなかった。だから私はマンションから飛び降りた。その現実を認められなかった脳科学者のあなたはあの装置を発明した」妻はいつのまにかタイムトラベラーの姿をしている。私の部屋にいたはずが、いつのまにかあの屋敷の中にいる。
「あの部屋はおまえと彼女がはじめて暮らした部屋だ。おまえはあの部屋を借り、まるで今まで何事もなく住んでいたかのように振る舞った。そしてこの屋敷の主は実のところお前なのだ」タイムトラベラーの顔をよく見ると、それは私の顔と瓜二つだった。
私は私の人生が許せず、記憶と認識を改竄してフィクションの中を生きる装置を生み出した。しかしそのフィクションが完璧ではなかったのだ。
「タイムマシンでもう一度やり直せばいい。人間は何回だってやり直せる」私はそう言って装置を頭につけると、過去に向けてタイムトラベルをした。
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内容に関するアピール
「フィクションを信じることで成立するタイムマシン」を主題にしました。
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