焼畑オンナが死んだ

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梗 概

焼畑オンナが死んだ

本作は、なんらかの被害者がオンライン上に残された痕跡から、他の被害者を集め、生前の加害者の所業を世に知らしめようとするが、罪を憎んで人を憎まず、怒りや憎しみを葬り、死者の冥福を祈るようになる物語。

2030年、主人公ハルの勤める企業は「ペルソナ訃報(P報)」というサービスを提供している。 自分の死後、オンライン、オフラインを問わず、人生のさまざまな場面で出会った人々が、葬式で一堂に会することのないよう、コミュニティごとに、いつ、どのように訃報を通知をするかを設定できるものだ。

人は様々な人格ペルソナを使い分けている。家族、匿名のSNS、オンラインゲーム、ジム、ママ友と会う時の自分。時間や場所、コミュニティによって、誰しも演じている人格があり、家族や会社の同僚に知られたくない顔もある。終活の一環としてニュースで取り上げられて以来、P報利用者は増えている。

ある日、ハルの元にマリのP報が届く。マリが自分宛てに訃報を出すとは思えない。かつて、ハルはマリに恋人を奪われて以来、犬猿の仲だったからだ。何かがおかしいと思いながら、訃報に書かれたオンライン葬儀場ログインすると、マリの元カレを含めた男たちと出会った。マリに裏切られた被害者たちだった。ハルはマリのことを「焼畑オンナ」と呼んでいた。これと思った男に手を出し、彼らの助言や立場を利用しては捨て、次の男に手を出すからだ。一通り、マリの所業について語り合う。それにしても、マリは自分の行いを悔いて、ハルたちに訃報を出したのだろうか。しかし、マリはそんな殊勝な女ではない。しだいに、なぜ自分たちが集められたのか、一同は考え始める。集まった男のなかの一人は、他にも憎んでいた相手からの訃報が届いているという。もやもやとした気持ちを残して、マリの葬儀は終わった。

ハルはこの案件について、社内で検討することを提案した。そこで、ハルが受け取った訃報は、自社サービスを真似ているが、違うプロトコルで送信されたことがわかった。同僚のギダは、オンライン上に残っている特定の人物の、あるいはその人物に対する発言や写真から、当該人物の交友関係を暴くプログラムを見つける。マリの訃報は、そのプログラムを元に、P報のフォーマットを利用して作られたものである可能性が高いことがわかった。

このまま放っておけば、自社の信用が落ちてしまう。ハルとギダは、偽P報サービスを作った人物を探し出す。犯人は過去の虐めによって人間不信に陥って、引きこもりになり、人生の多くの時間を無駄にしたと考えた。その復讐として偽P報を作ったことがわかる。ハルとギダは裁判ではなく、自分たちで決着をつけようと考え、同じような境遇の人々の声を集める。どのように許したか、どのように前を向けるようになったのか。ハルはギダや犯人とともに怒りや憎しみを葬る方法を模索し、未来を向く方法を考えるうちに、マリの葬式をもう一度やり直そうと試みる。

二度目のオンライン葬儀を通して、ハルの中で、ようやくマリの思い出に付随する焼畑オンナは死んだのだった。

文字数:1263

内容に関するアピール

最初、誰を弔いたくないか、について考えてみました。

今回はオンナとしましたが、社会に出て、他人を踏み台にする「焼畑」を行う人を見ることが度々ありました。もし将来、訃報を受けることがあったとしても、葬儀に行くことはないと思っています。

しかし、作中で言う「焼畑」は、彼らがなんらかの事情で選んだ生存戦略で、彼らの価値観を、他人が断じることはできません。わたしの倫理観には反します。でも、喜んで彼らに養分を与え、育つための手助けをし、次のステップへと送り出している人も、いるのかもしれません。

わたしたちは、葬儀で何を弔うのでしょうか。かれらの身体なのか霊魂なのか、われわれとの関係性なのか行いなのか。物語に課題の問いを仮託して、主人公ハルとともに悩みました。

文字数:325

課題提出者一覧