梗 概
白々と朝も夜も無く部屋照らす光がせめて暖かければ
つくば科学実験都市では、地元住民を被検体として、様々な実験が行われている。主人公の黒絵サラは、成長をコントロールする実験の被験者だ。この実験は、少子化対策の解決のため、自分の意志で身体的成長を止めたりl早めることができる。若返ることはできない。若者たちは、「十分な収入を得られるようになってから子供を産みたい」「親の介護と子育ての期間をずらしたい」といったことが、望んでいた。そこで、子供を生み育てる適齢期に、金銭的な余裕がなかったり、親の介護と子育てが重なることを避け、のびのびと子供を生み育てることが、実験の目的だった。長期的な実験で、被験者たちは身体年齢が若く、少々無茶ができる間に仕事をしたり、親の面倒を見てから、パートナーと子供を育てた。
サラは、自らの意思で、身体年齢6歳のまま過ごすことにした。子供は親切にされやすいから得だと思っていた。また、食料が少なくて住む省エネ状態で、どれくらい生きられるのかにも興味があった。一番の問題は、自分が成長しても、美しくはなれないと実験の予測でわかっていたため、、ちやほやされる幼女のままでいることにしている。実年齢が52歳になっても、子供を産み育てたいとは思わなかったのだ。
そんな中、大きな震災が立て続けに起こる。つくば市には各国から招聘した研究者が大勢住んでいる。彼らのために、宇宙開発センターと道路を挟んだ向かい側に位置する無機材質研究支所が協力し、密かに、宇宙センターの南に位置する産業総合研究所の地下には、巨大なシェルター群が整備されていた。これは、一部の研究者だけが知っているもので、研究者たちはシェルターでの避難生活を始めた。それでも、シェルターの数は余っており、さまざまな長期実験の被検体たちが、優先的に避難することが検討された。
成長をコントロールしている被検体も、その候補に上がっていた。しかし、条件は子供がいること。サラは自分がシェルターに入るため、一計を案じた。全くの他人を二人集めて、疑似家族を作ることにしたのだ。たまたま、シェルターの前で立ち往生していた、無資格の二人を見つけ、自分の計画を話した。
無事に三人が家族としてシェルターに入ることができたものの、初対面の他人同士。そして幼児にしか見えないサラが一番年上なものだから、毎回二人をやり込めてしまう。喧嘩は絶えなかった。
半年ほど立ったある日、シェルターの空調が効いていないことに気がついた。大雨で地下堂まで浸水していたのだ。若い二人が、サラだけでも逃がそうとする。自分の半分ほどしか生きていない二人を、サラはおいて逃げることはできないと思った。
なんとか窮地を乗り切り、地上へ出た三人は、そのまま家族として暮らすことにした。それぞれが、はっきりと自分の意見を言い合える、友人同士のような家族になった。一方で、サラは二人の子供として、身体年齢を早めるかどうか悩むのだった。
文字数:1198
内容に関するアピール
2018年第9回「小さな世界を見せてください」を課題としました。
まずは、つくば市という限定された地域、さらにシェルターという密室、そして家族という小さな共同体を描いてみました。
自分は、つくば市に生まれ育ちました。
固定電話の市外局番は「0298(ゼロツクバ)」。偶然なのか、なにかの符牒なのか、未だに判然としません。
研究所が徒歩圏内のあちこちにあったため、市役所や図書館のように、あらゆる都市には研究所や宇宙開発センターがあるものだと思いこんでいました。実際は、つくば市自体が特殊な場所だったのですが。
せっかく面白い地域に住んでいたので、地元を舞台に、大好きな疑似家族モノを書いてみようと思いました。
成長を自らコントロールする悩みを、実作ではもう少し練りたいです。
タイトルは、シェルター内でギクシャクする疑似家族のイメージからつけました。
文字数:368