紅霧に融ける影

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梗 概

紅霧に融ける影

 産業革命のさなか、蒸血機関が生み出された。吸血鬼の心臓を組み込み、人間の血液を取り込むと血液量が増え、心臓で強い圧力をかけて熱を生み出す特性を利用している。街灯・交通機関・紡績機、蒸血機関は様々な動力源として使われたが、日中は稼働しないため人々は夜に行動するようになった。蒸血機関が吐き出す紅い蒸気は街中に満ち、夜に生きる人々は自らの血を捧げ貧血と血液接触による病が流行した。
 マークは蒸血機器の技師として市井に紛れる吸血鬼である。英国から仏国にかけて血液を用いたネットワークを作るため海底トンネルを掘削する事業に関わり、機器のメンテナンスを行っていた。彼は昔、懇意にしていた人間の女性が吸血鬼狩りで命を落としてから失意の日々を送っている。
 ある日、彼は帰宅する途中で人間と吸血鬼のハーフであるらしき青年が倒れているのを見かける。ハーフは常に増え続ける血液、負荷をかけ続ける心臓、人間の貧弱な体ゆえ二十歳を越えて生きることが難しい。彼は成人間近で命は幾ばくもないように見えた。マークは青年を家に連れ帰る。目が覚めた青年は自らをテオと名乗り、来歴を語る。心臓を抜き取られた吸血鬼を集めた娼館で生まれ、幼い頃から労働に駆り出されて逃げ出し、余生は自由に生きたいと願いを告げる。
 同情したマークはテオに家の滞在を許し、思い出作りのために街を案内する。だが、体が病んでいるテオは十全に楽しめない。街巡りの最後に蒸血列車を見ながら死が怖くないか問うマークにテオは答える。紅い霧がある限り、街の動力源たる吸血鬼の女王の心臓は動いている。彼女が見てくれる限り、死よりも自由でないことが恐ろしい、と。
 数日おきに蒸血列車を見に行くテオと付きそうマーク。ある日仕事の都合でテオを一人にする。テオは彼を追ってきた連中に捕まり、戻らないことを不審がったマークは行方を探す。目撃情報からテオの居場所を特定、駅で列車を待っている誘拐犯を強襲する。誘拐犯たちは応戦してマークの体力を削るが、テオの血を吸うことで力を得て撃退する。しかし、テオは体力の限界に達しており、吸血鬼の女王が現れないことを嘆いて息絶える。蒸血列車が到着し、下車した誘拐犯の仲間たちによってマークは捕らえられる。
 マークは心臓を抜き取られ、本来ならば身体を切断して廃棄するところを、テオの脱走を手助けした見せしめとして海底トンネルの掘削に従事させられる。蒸血機器の使用を禁じられた最奥の劣悪な労働環境の中、胸の傷口は膿み、マークは体力を削られる。命運が尽き、死期を迎えた彼の前に吸血鬼の女王が現れる。なぜテオの死に際に現れなかったのかと詰るマーク。女王は、自分はいつでも闇とともにいる。彼らは再び訪れる吸血鬼の時代のための犠牲だった、と答え、納得していないマークの命を奪う。
 のちに目撃者は、紅い霧がマークの姿を隠し、霧が晴れると姿が消えていたと語る。

文字数:1198

内容に関するアピール

スチームパンクはロマンですが、蒸気が血だったらさらにロマンあふれそうだなと思いました。
良いことがない人生での救いとは……と考えながらお話を組み立てたことと世界観をつめていくなかで暗くなった感がありますが、ロマンを押し出してバランスを取っていきます。

文字数:124

課題提出者一覧