梗 概
ひとり魔
「隣室から異臭がただよってくる。住人もこのところずっと見かけない」という通報を受け、「僕」は同じく〈クリーナー〉である堀内、檜山、三原とともに、アパートの一室に踏み込む。部屋の中には白骨遺体。その傍らには、乾いた血のこびりついたナイフが残されていた。死後数ヶ月は経っていると見られ、腐敗しきった組織が液状化している。その床のシミが、四人の目の前ですすっと動いた。慌てて捕まえようとするが、チームワークが悪くどたばたしているうちに窓の外へと取り逃がしてしまう。
そんな光景が、今では珍しくもなくなった。孤独を抱えたまま死んだ人間が、異形の怪物へと変貌するようになってから数年が経過している。怪物は人を襲い、危険である。社会は混乱ののちに、あらゆる手段をもってこの世から孤独を根絶する方向へと走った。しかし、孤独という主観的なものに対し、包括的な解決策はなかった。「君はひとりじゃない」というスローガンが巷を覆う一方で、年間数万人が怪物化していた。
「僕」たちは、怪物と戦う登録制の戦闘員である。足並みが揃わないのは、彼らがたまたま怪物発生が疑われる建物の近くにいたからマッチングしただけの即席チームにすぎなかったからだ。
逃げ出した怪物は、放っておけばさらに成長を続け、大きな被害を生むことになる。怪物は、生前思い入れのあった場所へ向かう習性を持つ。怪物となった人物のバックグラウンドを明らかにしようと、四人は部屋の中を物色する。
名前を須藤アキといったこの部屋の住人は、大学生らしかった。特定したSNSアカウントの投稿を見たところ、進学にあたって地方から出てきた彼女は大学での人間関係の形成がうまくいかず引きこもりがちになり、メンタルを病んでいたらしい。死因は自殺と思われた。
そんなことで、と檜山はせせら笑う。
同じく地方出身だった「僕」は、かつて自分が田舎から出てきた時のことを思い返す。兄が死に、まもなく怪物化したのだった。まだ世の中に怪物がはびこりだして間もない頃だったので、異形と化して暴れ回る兄の姿はかなりバズった。彼が自衛隊の攻撃で二度目の死を迎えたあと、空の棺で葬儀が執り行われた。「僕」はもともと過干渉気味の家族に辟易していたのだったが、葬儀の際、親戚から兄が孤独であったことに関して嫌味を言われると、その傾向はますます強くなった。やがて「僕」は出奔し、東京で怪物と戦って糊口をしのぐようになった。
「僕」は、檜山に言う。あなただって、死んだら化け物になるかもしれませんよ。
須藤アキだった怪物が次に現れるのは、彼女が通っていた大学のキャンパスだろうと目星がついた。四人が急行すると、現場はすでにパニック状態だった。大怪獣へと成長したそれは、悲痛な泣き声のようにも聞こえる咆哮を上げて学生を襲う。
「僕」の隣で支給されたライフルを撃つ檜山は、「お前ら一体どうしてほしいんだよ!」と吠えていた。
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内容に関するアピール
孤独に生き、死んでいく人々を社会が無視できない状況から発生するストーリーにしてみました。よろしくお願いいたします。
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