帰省

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梗 概

帰省

知的生命体の生み出したものと思しき電波を受信し、大掛かりな調査を開始した地球。調査機がたどり着くまで8年。調査に2年。報告電波を受信して5年。並行して電波を解析していたら、20年前に宇宙で行方不明になった女性宇宙飛行士のメッセージだった。メッセージはNASAにいる女性飛行士の娘ユーリに対し「来い」と言う。当然、行けるわけがないが、娘の気持ちは収まらない。そんなとき、娘は宇宙産業に進出したある巨大民間企業からオファーを受ける。NASAを辞めて、企業に就職し、旅を決意するユーリ。

行き帰りだけでも15年以上はかかる旅だ。ユーリは地球に残していく恋人のケイには気持ちとは裏腹に別れを告げ、新しい恋人を見つけて幸せになるようにと告げる。しかしケイの気持ちは途切れない。たとえ15年であろうと自分は待つとケイはいう。二人はもしその言葉が真実ならそのときは結婚しようと互いに約束して写真の入ったロケットを交換する。

いよいよ出発する宇宙船。出発カウントの前に彼女がまだ10歳のときまでの母親がいた家庭を思い出すユーリ。多忙で家庭を顧みず宇宙を追い続けた母親は父とよく衝突していた。ユーリにとって、自分は母親に捨てられた子供のようなものだった。

船は目的の星に辿り着く。着陸すると惑星の砂漠の向こうに遺構が見える。電波の発信源もそこを示している。遺構の内部に入る調査隊。そこには一体の人間の骨と件の電波発信装置がある。触れると惑星の意志と一体化した母の「声」が聞えてくる

母の声は言う。

実は我々は君達、地球の知的生命のことは太古より観察してきた。いや観察どころではなく実はことある毎に電波を発信して滅亡しないようにその意思を誘導して、そして保護してきた。だがそれも今日の君の選択次第で終わりになる。君たち、地球の知的生命は次なる進化を望むなら我々のこの誘導と保護の電波を停波しなければならない。それが君たちが宇宙のなかで次なる進化に向うために必要な条件なのだ。
 もちろん電波を停波しない選択肢もありうる。我々は実は知的生命がここを訪れるたびに電波を止めるか問うてきた。進化への道を選ばず、本来狂暴な意思というものを我々の保護のもとに預けて存在することを選ぶ知的生命も実は決して少なくはないのだ。
 電波を切ることはこれまで抑制してきた地球の知的生命の意思を完全に解き放つことになる。それはこれまで以上に自由な心を手に入れることになるが、伴って強い感情を手にすることになるだろう。それはこれまでぎりぎりのところで回避されてきた全面核戦争やその他の災厄を人類に齎すかもしれない。

ユーリは葛藤するが、電波を止める。

母の声は言う。自分はあなたの父親であるパートナーとの関係から逃避するようにこの星に流れ着いた。娘であるあなたにはどうかそのようなことがないような幸福を。ユーリは頷くと遺構から出る。

ユーリは地球で待っている電波から解放された恋人のケイの気持ちが変わっていないことを交換した胸のロケットに願って帰路の船に乗った。

文字数:1249

内容に関するアピール

2018年第六回課題「キャラクターの関係性で物語を回しなさい」を選びました。

母がいる惑星への旅行と地球に残した恋人の関係性を中心に物語を組み立てました。宇宙飛行士の母親がほとんど主人公を捨てるようなかたちでいなくなってしまったことと主人公が15年以上かかる惑星航行へ恋人を置いて旅立ってしまうことを反復させました。タイトルはシンプル過ぎるかなと悩みましたが、娘が母のもとに行くこと、そこからまた自分を待ってくれているかわからない恋人のもとに戻る二つを重ねて「帰省」というタイトルにしました。「ホーム・アローン」とちょっと迷ったんですが、それだと言葉的にコメディ映画の印象が強くなりすぎかなと危ぶみました。

文字数:302

課題提出者一覧