梗 概
タイムマシン倉
倉はサトルにとって、恐怖の対象だった。悪いことをすれば閉じ込められる。暗く黴臭い中、幾ら泣いても叫んでも、親の気が済むまでは出して貰えない。
けれどそんなある日、やはり倉に閉じ込められたサトルは、暗がりの中から現れた少女に驚く。少女は白いシャツに紺色のモンペ姿で、腹を空かせていた。サトルは倉の中にある米や梅干しを、求められるままに与える。少女は空襲から逃れてきたと言った。「空襲」は、サトルにとって両親や祖父母が話す昔話だ。半信半疑のサトルを置いて、少女は倉の奥の暗がりへ姿を消した。
数日後、またも倉に閉じ込められたサトルの前に、再び少女が現れる。今度は弟を連れていた。サトルは二人に倉の中の米とニンニクを与えた。暗がりに慣れて恐怖の薄れたサトルは、翌日以降、自ら倉に入るようになる。しかし、なかなか少女は現れない。それでも毎日倉に入ってみていたサトルの目の前に、とうとう少女が現れた。しかし、火傷を負った痛々しい姿である。弟とは、はぐれたと言って泣いていた。サトルは母屋から赤チンや包帯を取ってきて、少女の手当てをする。行くなと止めるサトルを振り切って、少女は弟を探しに暗がりへ去っていった。
以降、何度倉へ入っても少女に会えることはなく、サトルは正月を迎えた。親戚達と一緒に昔の写真を見ている内、サトルは叫ぶ。そこには、少女が写っていた。そして、その少女は、祖父の姉だというのだ。少女が弟を助け、二人とも無事に大きくなったことを知り、またそのお陰で自分も生まれたと知ったサトルは、会えないと知りつつも倉へ入り、「生き延びてくれて、ありがとう」と、今は亡き祖父の姉へ、お礼の言葉を囁いたのだった。
文字数:701
内容に関するアピール
タイムマシン倉のモデルはわが家の倉です。先祖代々の有象無象が詰まった空間は、いつもタイムマシンのように、私に先祖達の存在を語りかけてきます。そんな不思議な感覚の一端を、物語にしてみました。
文字数:94