梗 概
彼女たちの推し活
表現規制が厳格化され、残酷な描写や男女間での性的な描写が完全に排除されてしまった未来。表現規制をかいくぐり、女性たちは独自の消費活動を行っていた。
テレビ放映やネット配信における表現は、何かしらの理由をつけられ、存在を抹消される。テレビ番組は当たり障りのないニュースと人を傷つけないバラエティだけに変わってしまった。
映画館や美術館にも規制が及んだ。かつては自由を約束されていたネットの領域ですら、違反表現を行ったものには厳しい罰則が科されることとなっていた。
そのようななか、創作者、あるいは創作を求める人々は、小劇場へと活路を見出した。
映画館のような大手資本の介入が必要な場では、どうしても査察による規制から逃れることができない。だが、小劇場であれば、国からの介入を受けにくく、ある程度自由な表現活動が可能だ。
もちろんそれは、規制を受けないということではない。上演の際には台本や全体の流れなどを当局に提示する必要がある。だが、途中で止められることがないというだけでも表現者にとっては重要だった。創作を求める人々は劇場へと向かい、そこでは独自の文化が発達した。
物語としては、友人の勧めにより劇場へと足を踏み入れた女性のアオイ、劇場の観客として自身のすべてを捧げる女性カナエ、表現者の立場で劇場の裏側を支える女性ルイの三視点から、世界の在り方を描く。
アオイは仕事に没頭し、趣味を持っていないことにコンプレックスを感じていた。ある時、かつての同級生であるカナエとルイと一緒に食事をする機会があり、そこで劇場の存在を知る。アオイは劇場の世界に魅入られ、仕事終わりや休みの日に通うようになる。
カナエは両親とうまくいっておらず、かといって、家を出ることができず、その鬱憤を晴らすように劇場に通い詰める。彼女は劇場にのめり込むことで、自分の精神の安定を図ろうとしていた。
ルイは、幼いころに両親を亡くし、自分の力だけで社会を生き延びてきた。そんな彼女がたどり着いたのが表現者という立場で、彼女はメインストリームではないものの、一部の熱狂的なファンを抱えていた。
三人が会食して数年後、ルイは自身の渾身の作品を上演するとアオイとカナエを劇場に招待する。だがその作品は、規制を逸脱した表現が含まれていた。
それを待っていたかのように舞台に乱入するルイに敵対する同業者のセナ。彼女の通報により、舞台は中止となってしまう。その顛末にアオイ、カナエ、ルイの三人の女性たちがそれぞれの想いを抱くが、世界は何も変わらず続いていく。
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内容に関するアピール
ディストピアとまではいかずとも、なにかが規制、あるいは制限されている社会を書いてみたいと考えました。
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