暗い森の骸たち

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梗 概

暗い森の骸たち

「僕の死体を葬ってください。あの森の中にはたくさんの死体が放置されています。その中に僕の死体もあるんです」
 埋葬師の神崎のもとに来た影の薄い男は言った。

西暦2300年の日本。
 医学の進歩により平均寿命は男女とも二百歳くらいになっている。
新生児の全てが人工授精・人口出産となり、出生率と死亡率のバランスが取れるように管理されていて人口は五千万人を維持している。家族という単位はなくなり誰もが一人で生まれて一人で死んでいく。その結果、ほとんど全ての人が孤独死で人生が終わる。医学の進歩で病気で亡くなる人はいない。
 自宅や街の中のいたるところに孤独死監視センサーが設置されている。センサーが孤独死の遺体を認識すると、神崎のような埋葬師に連絡が入り、彼らは直ちに遺体処理に向かう。
 神崎が二十歳になったころ国から埋葬師に任命された。そして、遺体を分子レベルまで分解して空気中に散布するための、片手で持てて操作も簡単な装置が与えられた。
その装置で遺体を葬り遺体に埋め込まれているICチップのマイナンバーデータを役所に送信する。やるべき作業はこれだけだ。各地域、人口密度に応じた人数の埋葬師が配置されている。楽な仕事につけたと神崎は喜んでいる。しかし、なぜ自分が埋葬師に任命されたか分からない。そして、神崎は自分は重大なことを忘れているような気がする。

神崎は突然やってきた男の言っている意味が分からなかった。孤独死以外の死体なんて今の日本にはない。それに、おまえは生きているじゃないか。神崎は、こいつ頭がいかれてる、と思って追い返そうとする。しかし、男は帰らない。神崎は力づくで追い出そうとして男の腕を掴もうとするが掴めない。神崎の手は男の腕を素通りしてしまう。
「僕、幽霊になっちゃったんです」男はつぶやく。
 神崎は幽霊なんて信じたくなかったが目の前にいるので信じることにした。

森と聞いて神崎は富士山裾野の樹海を思い出す。今の日本に森と言えばそこしかない筈だ。神崎は幽霊の男を連れて樹海に行く。神崎の記憶では初めての樹海なのに以前に来たことがあるような気がする。幽霊男とともに樹海の奥へと進む神崎。そこには多数の骸とその幽霊たちがいる。そして、神崎は思い出す。そうかぁ、俺は確かにここに来たことがある。
「これが僕の死体です」幽霊男が指さす骸を見て神崎はすべて理解した。
「おまえは俺なんだな」神崎が幽霊に言う。

森にいる骸たちは、孤独死するまで生きられなかった自殺者だった。自殺者の中から埋葬師は選ばれている。死者をどうやって蘇らせたのか神崎には分からない。この国の全てを管理しているAIがやっていることなのだろうと神崎は思う。自分の死体を森に残したまま埋葬師たちは孤独死した人々の遺体を葬り続けていた。
 神崎は森にいる骸を持ってきた遺体分解装置で葬り続ける。最後に残った自分の死体を粉に分解して空気中に解き放った。

文字数:1200

内容に関するアピール

未来の埋葬について、それから、自分自身の死体を自分で葬るにはどうすればいいだろうか、を考えて、こんなストーリーになりました。
 自分勝手に作り出した死生観を洗脳するように人々に押し付けている未来のAIと、それに反発して埋葬師にされてしまった人々との対立を、実作では書きたいです。

文字数:138

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暗い森の骸たち

遺体は駅前通りにあった。
 人通りが多い朝の時間帯だけれど、誰もが遺体なんて眼に入らないかのようにして行きかっている。神崎が遺体に近づいていくと、彼が身に着けているダークグレーの制服に気がついた人々は遺体の周囲に空間ができるように避けていく。
 神崎は遺体に近づき顔を見下ろす。送られてきたデータによると遺体の男性は二〇八歳。まぁ、ほぼ平均寿命だ。安らかな死に顔をしている。神崎は右手に持っている装置を遺体に向ける。装置を作動させると遺体は数秒で消失した。五分ほどで処置を終えて神崎は現場を後にした。次の通知が来ている。次の現場はここから電車に小一時間ほど乗った郊外の住宅地だった。神崎が受け持つ地域の端っこのほうだ。こうやって神崎は自分が受け持つ地域の遺体を処理している。これが神崎の仕事だった。彼は国から任命された埋葬師だった。
 神崎が二〇歳くらいのとき何の前ぶりもなくその任命通知は届いた。通知を届けにきた無表情の男は、ダークグレーの埋葬師の制服、腕にはめる遺体の場所を指示するセンサー受信機、それから、遺体を処理する埋葬装置を神崎に渡した。神崎はそのとき埋葬装置がどのような仕組みになっているのか説明されたが理解できなかった。教わった通りにこの埋葬装置を使えば、遺体は着ている服もろとも分子レベルに分解され粉のようになり空気中に紛れ込んでしまうらしい。それが死者を埋葬するという行為になると、無表情の男は神崎に言った。埋葬という言葉を神崎はその時初めて知った。昔は死んだ人を埋めて葬っていたらしい。西暦二三〇一年の今はどのようにしているのか? 埋葬師以外の人は知らないのではないか? と神崎は思っている。彼自身も埋葬師になるまで知らなかった。
 西暦二三〇一年の日本は医学の進歩により平均寿命は男女とも二百歳くらいになっている。新生児の全てが人工授精・人口出産となり、出生率と死亡率のバランスが取れるように管理されていて人口は五千万人を維持している。家族という単位はなくなり誰もが一人で生まれて一人で死んでいく。その結果、ほとんど全ての人が孤独死で人生が終わる。医学の進歩により病気で亡くなる人はいない。自宅や街の中のいたるところに孤独死監視センサーが設置されている。センサーが孤独死の遺体を認識すると、神崎のような埋葬師に連絡が入り、彼らは直ちに遺体処理に向かう。
 今日二十四人目の遺体を郊外の川べりで処理したところで日が暮れてきた。次の通知はきていない。今日の仕事はこれで終わりだ。孤独死監視センサーは夜間には作動しない。神崎は帰ることにした。
 帰ってみるとドアの前に一人の男が立っていた。誰だろう?と神崎は訝しむ。今まで自分の家に人が訪ねてきたことは一度もない。神崎はドアの方を見て立っている男の背中に近づく。気配を感じたのか男が振り向いた。神崎は男と目を合わして対峙する。知らない顔だ。いや、どこかで会ったことがあるのか? いや、やっぱり初めて見る顔だ。戸惑う神崎を見つめながら男は口を開いた。
「僕の死体を葬ってください。あの森の中にはたくさんの死体が放置されています。その中に僕の死体もあるんです。
お願いです。
僕の骸を見つけて葬ってください。
そうすれば僕は弔われます。他の多くの人たちの弔いになります」
 神崎は男を部屋に招き入れる。知らない男なのだから追い返してもよかったのだけれど、この男の話を聞きたくなった。
「散らかっているけど、そこらへんに適当に座ってくれ」と神崎は言う。しかし、男は立ったままじっと神崎を見つめている。
 遺体は埋葬師がすべて処理する時代なんだから、森の中にたくさんの死体が放置されているなんてことは絶対あり得ない。それとも、その森には孤独死監視センサーはないのだろうか? それに、自分の死体が森にあるってどういうことだ? お前は今俺の目の前にいるじゃないか。この男やっぱり頭がいかれてる。部屋に入れるんじゃなかった。神崎は男を追い返そうとする。しかし、男は帰ろうとしない。ならば仕方ない、力づくで部屋の外に引きずり出してやる。神崎は男の腕を掴もうと手を伸ばす。神崎の手は男の腕をすり抜ける。もう一度掴もうと手を男の腕に。やっぱりすり抜けてしまう。男の腕を掴めない。
「僕、幽霊になっちゃったんです」男はつぶやく。二十四世紀の時代に幽霊だなんて、神崎は信じたくなかったが目の前にいるので信じることにした。
 いつまでも立たれていては落ち着かないので、神崎は幽霊男をソファーに座らせた。幽霊男は話し始めた。
「僕もよく分からないんですが、森の中にいる死体たちはみんな殺されたんだと思います」
「どうしてそう思うんだ。もう何十年も殺人事件は発生していない」
「たぶん、この街を管理しているAIに殺されたんだと思います。死んでいく人と生まれてくる人のバランスを保つために」

「昔は、霊とか魂とか信じられていて、死んだら葬式をして、お経をあげて正しく葬れば、また人間として生き返ってくる、なんてことを信じてたらしいけど」神崎は言う。
「そうですね、今は死んだらもうそれで終わり、って誰も知ってますよね。AIが教えてくれました」
「そうだよ。でも、お前は」神崎はもう一度男に触れてみようとしたが、できなかった。
「僕も、今の自分の状態が信じられなくて。いつものように夜寝てたはずなのに、気がついたらあの森にいて、自分の体を上から見ていたいんです。前に本で読んだけど、これって幽体離脱ってやつですかね?」
 
「僕たちを正しく葬ってください」幽霊男が言う。
「正しく葬るってどうすればいいんだ? 俺がいつもやってるのは、国から支給されたこの埋葬装置で死体を粉レベルまで分解して空気中にまくだけだ。これは正しくないってことか?」
「はい、たぶんそうでしょう。それだと死体に残っている魂も粉になっちゃいます」
「おまえは魂の存在を信じるのか?」
「はい、今の僕が魂だけですから」

「僕がみんなの代表としてここに来ました。何故だか僕だけこうやって森から出ることができたんです」
「どうして俺のところに来た? 埋葬師は他にいっぱいるぞ」
「わかりません。あなたは何か特別なものを持っているんじゃないですか?」
 話疲れて神崎は寝落ちしてしまう。

朝になった。神崎は毎朝六時に、孤独死監視センサーから送られてくるチャイム音で起こされる。夜中に寿命がつきた人は六人いたようだ。埋葬師の朝は忙しい。
 神崎は手際よく支度をして、出かけようと靴を履いてドアを開けようとすると「おはようございます」という小さな声がかすかに聞こえてきた。あ、そうか、あの幽霊男がいたんだった。履いた靴をぬいで部屋にもどり部屋の中を見回す。幽霊男は部屋の隅で窓から差し込む朝の光を避けるようにして立っていた。男の体は半分透き通っているようで存在感がまったく無い。
「朝は苦手なのか?」神崎が訊くと「はい、幽霊ですから」と男は弱々しい声で応えた。
「俺は忙しい。埋葬依頼の通知がもう十件きてる。すぐには、おまえの遺体を処理することはできない」
「はい、待ちます」
「この部屋にずっといるつもりか? まぁ、いてもいいけど」
と言って神崎は遺体埋葬に向かう。幽霊男は着いてきた。
 今日の最初の遺体は高層マンションの一三八階にある。埋葬師はあらゆる場所にフリーパスで入ることができる。神崎は背後霊のように着いてくる幽霊男と一緒にエレベーターに乗り上昇した。
「おまえのいう森って何処にあるんだ?」
 神崎は幽霊男に問う。
「わかりません。僕はどうして幽霊になってしまったんだろう? 分かりますか?」
「俺に分かるわけないだろう」
「そうですよね。なんとなく、あなたなら分かるような気がして。僕はもしかしたら」
 エレベーターが一三八階に着いた。小さな声で呟き続ける幽霊男を無視して神崎は遺体処理現場に向かった。
 そこに遺体はなかった。
 神崎は孤独死監視センサーから送られてきた遺体位置データを再確認する。ここで間違いない。今まで数え切れないほどの遺体埋葬をしてきた神崎にとってこんなことは初めてだった。センサーの誤動作だろうか?一人暮らしのワンルームだ。一眼見ただけで遺体が存在しないことは確認できる。トイレもバスルームも空っぽだ。神崎は次の指示される現場に向かった。そこにも遺体はなかった。
 日が暮れてきた。神崎は途方に暮れていた。
 孤独死監視センサーが指示する場所全てに行ったけれど遺体はひとつも確認できなかった。神崎が埋葬師になってから、こんなトラブルは初めてだった。

何かトラブルが発生したときは埋葬センターに連絡するように言われている。神崎は渡されている小型端末で、埋葬センターに通話希望のメールを送った。
 返信はこない。十分待ってもこない。幽霊男は夕暮れの光を浴びてオレンジ色になって佇んでいる。太陽が沈むにつれて存在感が戻ってきているようだ。神崎は大きくひとつため息をついて「帰ろう」と幽霊男に言って歩き出した。
「死体、ひとつもなかったですね」
「ああ、そうだな。孤独死監視センサーの誤作動だろう。明日になれば直ってるよ」
「本当にそう思ってますか?」
「どういうことだ?」
「あなたの心の中は疑問がいっぱい詰まっている。なぜ、自分が埋葬師に任命されたのか? 人間の遺体をこんな簡単に葬っていいのか? なぜ、僕みたいな幽霊が訪ねてきたのか?」
 幽霊男の声を背中に聞きながら神崎は家に向かって歩き続ける。コイツの言う森ってどこなんだ? 俺が知っている今の日本にある森といえば、あそこしかない。と考え続ける。
 帰り着くと一人の男がドアの前に立っていた。もう一人幽霊男が現れたのか? 面倒だなぁーと思いながら神崎は男の背中に近づいていく。すると、男が振り向いた。男の顔を見て神崎は立ち止まる。一瞬考えて「あ、あんたか」と神崎は言う。二〇歳の神崎に埋葬師の任命通知を届けにきた無表情の男だった。
「トラブルが発生した。しばらくは孤独死監視センサーからの通知はない」
 それだけ言って無表情の男は帰っていった。幽霊男の体をすり抜けて。あの男には幽霊男は見えないらしい。
 一体何が起こっているんだ? 神崎には見当もつかなかった。埋葬師に任命されてから特に疑問も持たずに毎日遺体を処理し続けてきた。どれだけの時間が経過したのかも神崎にはよくわからなかった。埋葬師になる前、俺は何をしていたんだっけ? 俺って今何歳だ? 俺は、こんなにも自分のことを知らないのか、と神崎は苦笑いした。
センサーから通知がこないのなら明日あの森に行ってみるか、と神崎は決心した。
 幽霊男は黙って立ち続けている。
「明日は朝早いぞ。今夜は早く寝よう。あ、おまえは寝る必要ないんだったな」

朝靄がのこる冷たい空気の中を神崎は幽霊男を背後に連れて歩いている。 二十四世紀の日本にのこる森といえば富士山麓の北西部に広がる樹海しか神崎は知らなかった。二十一世紀ごろまでは多くの人々が訪れていたであろう遊歩道は、荒れ果てて背の高い草が蔓延っている。神崎は立ち止まり振り返る。朝靄に紛れそうになっている幽霊男も立ち止まる。
「おまえがいた森は此処か?」神崎は幽霊男に問う。
「はい、たぶん此処だと思います」
「此処は広いぞ。おまえの死体とたくさんの骸たちがいる場所が分かるか?」神崎の問いかけに幽霊男は眼を閉じ黙り込む。やがて歩き出し神崎を追い越して前に進む。神崎は幽霊男の背中を追う。
 幽霊男の背中を見続けるうちに神崎は不思議な気持ちになる。何処かで見たことがあるような背中だ。コイツの歩き方を見ていると異様な気分になる。それに、この荒れ果てた道とこの森は初めてではないような気がする。そうだ、間違いない、俺は以前にこの道を歩いたことがある。この森に来たことがある。前を行く幽霊男は道をそれて森の中へと入っていった。神崎はその背中を追う。
 朝の太陽は昇りきっているのに森の中は薄暗かった。ほんの数分歩いただけで遊歩道は見えなくなり、針葉樹と広葉樹の混じる原始林の中を神崎と幽霊男は進んでいる。どちらの方向に進めばこの森から脱出できるのか神崎にはもう分からなかった。前を行く幽霊男は滑るように歩いている。神崎は溶岩むき出しの凹凸が激しい地面に足を取られながら、幽霊男を見失わないように懸命に歩いた。
「そんなに急ぐな」神崎は前を行く幽霊男に声をかけた。幽霊男は立ち止まり振り返り戻ってくる。
「疲れましたか?」
「おまえは幽霊だから疲れ知らずだろうけど、俺は生身の体だからな」神崎はアカマツの樹に寄りかかりながら息を整えた。
「まだ先なのか?おまえの死体と、お友達の死体たちは?」
「もう近くまで来ています。ほら、あそこを見てください」
 神崎は幽霊男が指さす先のミズナラの樹を見る。その樹の枝から何かがぶら下がって揺れている。近づいていって見るとそれは女性の死体だった。いつも処理している孤独死の死体とは違って若い女性だ。
 それがまるで出迎えの死体だったように、そこから先はいたるところに遺体が放置されている。男女の比率は同じくらいで歳若い死体ばかりだった。死体を見慣れている神崎だったけれど、同じ場所でこれだけの数の死体に囲まれるのは初めての経験だった。百体以上はありそうだ。白骨化しているものもある。
 呆然と立ちすくむ神崎の足元に倒れているぼろぼろのスーツ姿の男の死体が、おもむろに起き上がった。そして、神崎に向かってよろめきながらゆっくり歩いてくる。
「ほうむってくれほうむってくれほうむってくれ」とつぶやきながら神崎に迫ってくる。それを合図にしたかのように周りの死体たちが次々と立ち上がり「ほうむってくれほうむってくれほうむってくれ」と声に出しながら神崎に襲いかかる。
 死体の集団から神崎は逃げ出した。しかし、百体以上の死体がいる場所で逃げ道はない。神崎は足がもつれて転倒する。背中のリュックに入れてある埋葬装置を取り出し、迫りくる死体に向かって装置を作動させた。
 処理できるのは一体ずつだ。神崎はゾンビのように群がってくる死体を片っ端から粉に分解して空気中に解き放っていく。この埋葬装置をこれだけ連続して使うの初めてだった。装置は次第に熱をおびてくる。
「並んでくれ!順番に葬ってやるから!」神崎は叫ぶ。それでも、死体たちは我先にと神崎に向かって両手を差し出しながら「ほうむってくれほうむってくれほうむってくれ」と集団になってにじり寄ってくる。死体たちの眼はどれも虚ろだった。腐乱しかけている者もいる。ほとんど骨になっている者もいる。
これでいいのか? おまえたち本当にこんな終わり方でいいのか? と神崎は心の中で叫び続けながら骸たちを葬り続けた。
 気がつくと神崎の周りに死体はいなくなっていた。粉レベルに分解された死体たちが混じる風を神崎は頬に感じた。
 音もなく幽霊男が近づいてきた。
「俺は、結局この埋葬装置を使うしかなかった。これで正しかったのか?」
「みんな喜んでいますよ。ありがとうございました」
「おまえの死体がまだだったな。何処にある?」
 幽霊男は黙ったまま神崎を導くように歩く。神崎はその後を追う。十メートルほど歩いて幽霊男は立ち止まる。そこには大きな倒木ある。その向こう側を幽霊男は指さした。神崎は倒木の向こう側を覗きこむ。
「そうか、おまえは俺だったのか?」
 神崎は自分の死体を葬った。
                                   了

文字数:6307

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