梗 概
もう一度産むから、まって
19世紀のウィーン。新しい環状道路が建設され新しくなっていく街の郊外に古い屋敷がある。女の幽霊が住んでいると言われていたその屋敷に、最近、本物の女が出入りしているという噂をフランツは聞きつける。主であるデメル夫人に近づいたフランツは、屋敷にいる女たちの話し相手になって欲しいと頼まれ通いはじめる。
屋敷には夫人とその姉妹、さらにその娘たちを含めた多くの女たちが暮らしていた。その中でも無邪気なクララにフランツは心惹かれるが「あの子はダメだ」と引き離され、会うことさえも許してもらえない。
ある夜、パーティを抜け出した中庭でクララと遭遇したフランツは、クララを連れ出して北部の街へ駆け落ちする。親しくしている修道士グレゴール・メンデルに結婚の儀を執り行ってもらおうとした日の朝、デメル夫人が二人の前に姿を表す。フランツはクララに対する真剣な想いを夫人に伝えるものの夫人は、クララが『特別な子』であるとした上で
「あなたは必ずクララを見捨てる日が来る」
といって譲らない。真相がわからずフランツは困り果てるが、クララの想いに夫人が負け、無事二人は夫婦となる。
しかしその8ヶ月後、クララが出産する。妊娠期間から考えてフランツの子でないことは明らかだった。フランツは動揺するが、自分と結婚する前のことだと割り切り、子をウィーンの家へと連れて行く。そこで夫人に子供の父親のことを訪ねるも「クララの子だ」の一点張りで拉致があかない。
そんな中、グレゴールが兼ねてより研究していたエンドウ豆の遺伝について研究をまとめて発表する。これまでの苦労とその内容の革新性を知るフランツは賞賛するものの、周囲の反応は芳しくないようでグレゴールは日に日に落ち込んでいく。『種の起源』が話題になっているダーウィンへも論文を送ってみるものの返事はないようだった。
1年後、クララが再び子を出産する。今度こそ自分の子だと思っていたフランツだったが、劣性遺伝の赤毛の子供は自分が父親だとすると生まれるはずがない子だった。怒りで赤ん坊を床に叩きつけたフランツに
「もう一度産みますから、まってください」
とクララは泣いて懇願する。
クララの裏切りと赤ん坊を殺してしまったことへのショックで呆然となるフランツをグレゴールが支える日々。そこへデメル夫人から手紙が届く。そこには、デメル家の女たちが一人でも子をなすことができる体であること、その中でもクララは一人でしか子をなせない体であるかもしれないことが綴られていた。
この事実を受け止めきれないフランツはグレゴールに相談する。話を聞いて、グレゴールの目がいち科学者として輝いているのに気づいた時にはもう遅かった。
「単為生殖ができるものは人ではないし、神の創造物でもない」
とグレゴールに言われ、疲れ切ったフランツはそれを黙って受け入れる。
クララは連れ去られ、ウィーンのデメルの屋敷からも女たちが収容される。
後日、デメルの女たちが研究対象として解剖されている現場を見てもフランツの心は動かない。ただ神と共にあれた自分を感謝するのみだった。
文字数:1277
内容に関するアピール
第2回に提出した実作を改稿しようと考えています。
大きく手を加えたいのはメンデルの研究、『種の起源』についてや、単為生殖など科学的な部分の扱いです。ここを厚くすることで、作品が重層的になればと思います。方向性についてのアドバイスや参考になる作品など教えていただけるとありがたいです。
他には登場人物たちの心情の動きをより丁寧に追うことと、デメルの家の奇妙さ、ウィーンの街やこの時代の様子をもう少し書き込みたいと思っています。
文字数:210