梗 概
親知らずの跡地
不発弾処理で立ち入り禁止になっていたために、平林は最寄り駅からいつもと違う道を通って帰らなければならなかった。最近になって、不発弾の爆発事件が三件も相次いだ。そこで改めて調査が行われると、新たな不発弾が発見されたのである。
そんな中、ポストに不穏なチラシが届いていた。そこには「近い将来、不発弾によって辺り一帯が“大爆発“を起こすから避難せよ」と書かれており、差出人として「緑川」という名と住所が明記されていた。最初はバカバカしく思えたそのチラシが、平林はどうしても気になった。そこで彼は、大学の友人である松原と若草を誘って、チラシの住所に行ってみることにした。家から遠くないその場所には、今は使われていない通信所の廃墟があった。
三人が廃墟のなかに侵入すると、様々な通信機器が並んでいる部屋に、緑川と名乗る老人が座っていた。緑川は日課のように近い将来に起こる“大爆発“を報せるチラシを拡散しているのだった。彼の話すところによると、ここの地下には巨大な不発弾と、それに取り憑いた霊がいて、霊が暴走を始めるとき、巨大な不発弾とともに、ここら一帯のすべての不発弾が爆発するというのだ。そして最近の爆発事件もまた、この霊によって引き起こされたのだと説明した。
霊を一目見たいと頼むと、緑川はためらいつつも地下室を案内した。ヤツを刺激するなと緑川は何度も注意を促した。たくさんの配線が行き着く先の、重たい鉄扉の向こうに、緑の軍服を着た白人が大きな背中を丸めて腰掛けていた。霊は自らの境遇について、爆弾は本来ここから五キロ北にある貯水池に投下される予定だったが、狙いを外れてここに落ちてしまったために、成仏できないでいるのだと語った。
霊が何度も「本来の地点に投下されていれば!」と未練がましく言うので、平林が彼をなんとか本来の地点に投下し直すことができないかと提案した。霊とはいっても物理的な身体があるので、大きなドローンを爆撃機に見立て、彼を吊り上げ、投下し直せば、成仏するのではないかという案が出て、その場にいた全員が賛同した。
日を改め、三人は大型ドローンを大学から借りてくると、この案を実行に移した。初めは不安定な挙動を見せたドローンだったが、松原の巧みな操作によって安定し、人型の霊を吊るした奇妙なドローンは、住宅街の上をゆっくりと飛行した。人々の注目を集めながらも、警察沙汰になる前に目的地の貯水池に到着した平林らは、ここに投下すればいいんだな、ともう一度確認をして、彼を十五メートルほどの高さから投下した。亡霊は、着水する直前に陶酔の声を上げながら成仏し、一瞬の間の後に大きな振動とともに巨大な水柱が上がった。無事に除霊された爆弾は調査によって次々と発見され、事故もなく処理された。通信所跡の廃墟は解体され、緑川は二度と三人の前には現れなかった。
文字数:1171
内容に関するアピール
不発弾に取り憑いた亡霊を、学生と老人が協力して成仏させるお話です。若い人間が、老人や不発弾の霊と対峙し、自分の生きる時代とは異なる時代、あるいは死者たちに向き合うということを、葬るという儀式を通して描きたいと思います。
文字数:109