梗 概
忠臣蔵エイリアン
子の刻、米屋五兵衛の呉服家に火消装束の四十七人が集っていた。
今彼らの刃は、吉良上野介の喉元に届かんとしている。
吉良上野介はすでに人間ではない。吉良上野介の身体には、地球外生命体が憑依している。四十七士はそれを翳里鮟と呼んだ。
元禄15年12月14日、吉良邸に討ち入るべく集まった四十七士の中に間十次郎と間新六が居た。「剣術系図」を著した間喜兵衛の長兄と次兄である。筆頭家老大石内蔵助の号令で、十次郎と新六は吉良藩邸の表門と裏門へそれぞれ向かう。
雪の降る江戸。後に「忠臣蔵」と呼ばれる赤穂浪士の討入が始まった。
忠義の侍として歴史に名を残そうと誓いあった十次郎と新六は、表門・裏門より破竹の勢いで進んでいき、吉良・上杉方と斬りあう。半刻ほどで邸内を制圧すると、十次郎はまだ見えぬ吉良上野介を探しまわった。炭小屋を捜索すると、中より白小袖の上野介が出てくる。二人は向かいあい、天流剣術の構えで白刃を抜いた十次郎が上野介の首を斬り撃とした。血しぶきで、周囲の雪が赤く染まる。
だが、首の無くなった胴体は倒れなかった。首の無い胴体が脇差を抜き、十次郎に迫ってきたのだ。十次郎が目を疑っていると、吉良上野介だったものが刀を振り上げる。致命的な油断、と死を決意した十次郎だったが、新六が間に入る。
新六の右腕が宙を舞った。
瞬間、十次郎は主君、浅野内匠頭の言葉を思い返す。
此の段、兼ねて知らせ申すべく候得共、翳里鮟なる外宙的生命、我が裡に有也。
翳里鮟に初め憑依されていたのは、浅野内匠頭であった。より強い宿主を求めて憑依を繰り返し脱皮する翳里鮟は、松の廊下での刃傷沙汰の最中、額の傷から吉良上野介へ憑依した。
「この外宙的生命こそ、お家断絶の仇であるのだな」
と十次郎は鍔を強く握りしめる。
断ち切られた断面から、新たな頸をすげ替えて、吉良上野介が再生する。翳里鮟の傀儡となった上野介が腕を振り上げると、空中に炎の渦が走って、十次郎の隣にいた吉田忠左衛門を焼き尽くした。翳里鮟の傀儡となった吉良は周囲に炎を展開し、四十七士を近づけまいとする。
燃え盛る吉良邸で四十七士と地球外生命体の血戦が始まった。
四十七士たちは協力し、翳里鮟を追い詰めて、これを撃つ。壊滅状態となったため、重傷だがまだ動ける十次郎と新六で眠る主君に首級を捧げるため泉岳寺まで歩くこととなった。
しかし、その道中で新六の命が果てようとしていた。
弟を失いたくない十次郎は死んだ上野介の脳に残っていた半死の翳里鮟を新六に食わせ再生を図る。すぐに傷が塞がる新六。しかし、新六は翳里鮟に取り込まれてしまう。やむを得ず、十次郎は刀を抜くも、翳里鮟の力を得た新六には適わず、新六を逃がしてしまう。
血戦の末、残ったのは上野介の首のみ。
十次郎は上野介の首に残った翳里鮟を自らの身体に憑依させる。そして翳里鮟を打ち滅ぼし、弟を救うことを主君の墓前で誓うのだった。
文字数:1190
内容に関するアピール
兄弟で宇宙人の脳を食べる話を書こうと思いまして、時節柄、忠臣蔵を舞台とした話にしました。基本的に兄弟の話です。忠臣蔵とエイリアンが出てくるので、タイトルはそのまま「忠臣蔵エイリアン」です。吉良の身体から炎が出ている現象については上手いワケを考えています。忠臣蔵を題材にした年末特番はここ十年でグッと数が減っており、二〇二〇年は放映がないようで、チャンスと思い、忠臣蔵を題材にしました。これほど有名な題材を扱うのは一般的に大変なのではないか、という気ももちろんします。
文字数:233