はかれない<親|子>のパラドックス

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梗 概

はかれない<親|子>のパラドックス

量子コンピュータでのゲーム『BEG』。ある日ゲーム管理者の朝長は、NPCであるラザロが、なぜかクリアしていることに気づく。
ラスボスの魔王を倒し(たことになって)有頂天となってるラザロにゲーム上で接触すると
「僕の村に来る勇者さんの”踊り”を真似してみたんだよ」
と自慢げに言う。調べてみると、ラザロがいた村で特定の挙動を行うと、途端にクリアムービーに飛ぶバグが存在した。だが、自分の目的フレームを見つめ直し、魔王を倒したラザロもまた異質なバグだ.
上司からはラザロバグの削除を命令されるが、ラザロに昔亡くした息子を重ねてしまった朝長は、AI人権団体と協力し、ラザロの救出を行う。
だが、量子複製不可能定理のせいでコピーはできず、ゲームの中にも居場所はないため、生体ハードウェアにラザロを移植し、現実世界に受肉させる。不思議な共同生活が始まった。次第に思慕を重ねる朝長、だがラザロは、ゲームの中での『学び』から、現実でも『バグ技』を見つけ、魔王を倒そうと躍起になる。
苦心するうちに、なんとラザロは量子の性質を操りはじめた。量子暗号をハックし、無限の計算能力を手に入れ、瞬間移動もやってのける。量子のランダム性を操り、マクロなコヒーレント状態を作りだす。
驚きつつも朝長は、この世に魔王はいないと叱る。「親である自分の言うことは聞け」と諌めると、ラザロは「NPCに親はいない」と反抗するが、なぜかその言葉で、ラザロの処理に不協和が生じた。
そして、ラザロは「ほんとに魔王がいないなら」と考えを逆転させる。そして、壁抜けからの、カクカクとした空中浮遊で家出してしまう。
「魔王を倒すこと」に最適化してしまったラザロは、まず現実で魔王を作り出すことから始める。その立場に一番近いのはだれか?「そう、僕だ」
制限時間とディストピアな世界観のために、ラザロは量子病を流行らせる。量子のもつれを操り、距離に関係なく、ナノレベルのDNAのに働きかけて、タンパク質発現を操作し奇病を生む。「うん、いいかんじ」、量子病で皆が致死に至るまであと一ヶ月。
世の人々も、そしてラザロ自身も魔王として倒されることを望んでいるが、朝長だけはラザロが助かる術を模索する。そして、没になった設定資料の中にヒントが存在した。
朝長は量子病対策チームに対して、自身がラザロとの交渉者になる代わりに、自分の脳を直接量子コンピュータに繋ぐ条件を飲ませ、量子状態でBEGの世界にジャックインする。
朝長から招待され、ラザロがもう一度BEGの世界の中に接続する。と、そこで”本当の父”に出会った。そのアバターは、初期の設定にのみ存在したラザロの親の姿、そして、そのアバターを着ていたのは朝長だった。ラザロがその両の手の中に飛び込んだ瞬間、二人は重ね合わされ、ラザロは朝長の肉体と調和し、役割の枷から解かれた。
そして、ラザロは、朝長として目覚める。人として第三の生を得たラザロは、朝長の愛情をやっと理解した。

文字数:1225

内容に関するアピール

自分の得意なことは『科学知識で、あえて王道ではないガジェットと組み合わせ物語に仕上げること』だと考えます。(むかし、物理研究科で、かなりマイナーな分野も研究していたので、そのような思考パターンで考える習慣になった、と思います)
今回ならば『量子力学』と『バグ技』の組み合わせることによって、現実世界で様々な往年のバグ技を起こすにはどうすればよいか、を真面目に考察しつつ、親子の愛情をテーマに物語を構築していこうと思います。
タイトルについてのアピールは、『量』と『子』が入ってる点と、ラザロ朝長の肉体に変化する、というラストを予感させるため、量子力学の表現の一つである、<bra|ket>記法(Diracの記法)での遷移する確率の計算記法を借用しました(ちょっとした謎のおしゃれポイントとしての意図なんだなと、ご理解いただけますと幸いです)。

文字数:376

課題提出者一覧