二度とはなれないダイアモンド

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梗 概

二度とはなれないダイアモンド

千年前、この星は流星により一度滅びたという。その後地上は未知の物質に汚染され、人々は残った科学資産を運用しつつ地下での生活を余儀なくされた。生物が生身で地上へ出ると、全身が鉱物ダイヤモンド化する死病が生まれたからだ。地上では防護服が必須で、異形(鉱物)化した動物が跋扈していた。
 人々は地下にそれぞれ国を造り、細々と交流を持ち、あるいは富を求めて争った。
 ガザンもまた王として頻繁に兵を率い地上へと出た。武力により他国を圧し、異形を狩った。鉱物は汚染された大気を浄化するからだ。

彼には重用する毒見、鉱物病患者のシュゼがいた。
本来は隔離施設で働き、死に際は地上で鉱物の苗床になるのが鉱物病の慣例だ。身体から鉱石を生やす患者は人々から嫌忌された。しかし毒見は死に近い彼らに相応しい仕事だ。シュゼは自ら志願した。シュゼはガザンが王になる前からの知人で、彼に命を救われた過去がある。
 八歳から七年、シュゼはガザンの毒見だった。進行し続ける病はシュゼの内臓まで蝕み、やがて毒味に必要な味覚すら奪った。
 それをガザンは察し、毒見を辞めさせる。しかし地上送りの慣例を破り、なおもシュゼを傍に置こうとする男の判断が受け入れ難い者もいた。彼の奥方である。
 彼女は毒見と称して事実毒杯をシュゼに与えた。幸いにもシュゼは死なずに済むが、奥方は地上送りが決定する。しかしシュゼは奥方を庇った。ガザンにはそれがまったく理解できない。

男にはシュゼだけだった。かつて母国の王族の末席にいた彼は権力争いに巻き込まれ、地上で野垂れ死のうとしていた。そんな男を地上の巡回医である祖父に連れられたシュゼが見つけた。毒を恐れ食物を受け付けないガザンに毒見をした食事を与え、生かした。
 そのときからガザンが故郷と思うのはシュゼが住んだ国で、けれどそこは彼の母国の侵攻により滅びた。男達が長期、狩りに出ている間のことだった。幼いシュゼは鉱物にすべく地上へ晒されて、鉱物病を発症した。
 男は戦を指揮していた兄を殺した。兄と偽り母国へ戻り、血族を皆殺しにした。王座に居座ったのは、この椅子からならシュゼを救う方法を見つかるのではと考えたからだ。

けれど何年地上を駆け他国に知識を求めてもそんなすべは見つからない。せめてシュゼと死にたいと男は防護服なしで地上へ出るようになるが、それをシュゼは咎めた。
「どうか生きて、成し遂げて。──死んでも待っててあげるから」
 それが、シュゼの最期の言葉だ。男は死ねなくなってしまった。

男は鉱物化を防ぐ方法を探し続け、更に数十年かけて見つけ出す。
 老年の男は全身鉱物化が進んでいた。けれど死を前に男の心は晴れやかだ。
(ああ、やっと。──お前と)

男は死出の旅に出る。彼女と出逢った場所へ。シュゼの亡骸の鉱物を抱き、そこでようやく男は永遠の眠りにつけるのだ。
 お疲れ様、おかえり、と男は懐かしい幻を聞いた気がした。

文字数:1199

内容に関するアピール

私の書く物語は徹頭徹尾「ふたりの話」です。
 私の生きている世界では、永遠などというものは到底信じられません。
 特別な絆を持つふたりなんていないし、運命の出逢いもない。
 けれどどこかの世界ではそんなものがあると信じたい、私だって救われたい。
 そんなつもりで私は創作をしています。
 なのでもし「また和崎こんなの書いてるな」「和崎こういうの好きだよな」と思われたら、今回のお題は成功したと捉えたい、です。

タイトルは「二度と離れない」「二度とは為れない」というダブルミーニングでつけました。

本編に直接関係はしないですがダイアモンドの宝石言葉のひとつに「永遠の絆」というものがあるそうです。

 

文字数:290

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