梗 概
サチとタエは荒野を目指す
女子高生の有島幸は町を出たことがない。町長の孫というだけで疎外され不登校となった。親友の清野妙の連絡にも心配させまいと素っ気ない。
幸の祖父は長年町長を務めている。高潔な人物だが幸が生まれ祖母が亡くなった頃から豹変した。気候変動で都市は沈み人々は海上都市に移った。丘陵の観光地だった空良野町は荒野の広がるなか孤立した。農地は荒れ観光施設は閉鎖された。政府は機能せず町長は町の存続に妄執した。
世界的製薬会社が誘致され生活は潤ったが町は簒奪された。転入出は規制されネットやテレビラジオは禁止された。体内のマイクロチップは脳の全感覚を町に送信する。例外はバストイレ程度。人々は互いの行動履歴を閲覧でき相互監視社会に組み込まれた。
幸は廃遊園地の大観覧車を居場所とした。母以外は家族も幸を引き隠りと思っている。妙だけが観覧車の天辺に幸を見つけた。妙は地平線に電波塔が見えると言い、古い携帯ラジオは外の放送を受信した。
ある日偶然海賊放送が入る。外のリアルに二人は夢中になり、公衆電話から送るテキストは町の検閲を逃れて届いた。DJはこの時代に警鐘を鳴らす。自分を他人に任せるな、弱者を助ける強者たれ。共感した幸は町の異常さを自覚し転覆を考える。
チップは五感に割り込む機能を持ち町が占有する。祖父が携帯端末の映像通話アプリから送信するのを知る幸は、隠し機能のセキュリティを突破した。監視を逃れトイレに隠り、遊園地のマスコットの姿を借りて町の人に語りかける。最初はDJの言葉を借りたが居丈高に思われ反発された。妙に相談し説得を続ける内に幸の言葉は熱を帯びた。
人々に議論が広がり不信の声があがる。一方保障された今の生活を望む声もあった。町長の孫という立場が再び幸を追い詰め、遊園地で現状維持派の男に襲われる。しかし男を警戒していた隣人に妙が知らせ幸は助かった。生活を縛っていた相互監視が皮肉にも皆をまとめた。町長のリコールが求められ解職投票で罷免される。改革は中々進まないが人々の意識は変わり製薬会社の姿勢も軟化した。
久々に登校する幸。迎えに来た妙の姿に両親は動揺し妙は笑顔を見せる。かつて祖父は妻の妙の命を救うため製薬会社と手を組み町を売った。妙は死んだがチップのデータから仮想人格が作られ学習のため孫の幸と同期した。自立した妙はチップで人々の五感に割り込みARの存在として町に紛れ込んだ。幸が町長の執着を断ち正体を明かすと決めた。
祖父は権限を全て失い監視対象となったが家族は絆を取り戻した。幸は皆の前で目的地を決めず外の世界を旅したいと切り出す。今度は町と町を繋げたい。祖父は肯き妻と町を守ってきた筈が思い上がりだったと詫びる。
バックパックに携帯ラジオを括り付け幸は町を出る。「どこに行こうか」通信衛星越しにラジオが放つ妙の声に「地平線の向こうまで」と返す幸。
文字数:1200
内容に関するアピール
「ストーリーの焦点が合っていない」
「人物の事情と感情と行動が噛み合っていない」
たびたび指摘されてきた弱点を克服し、得意にしようと試行錯誤してきました。
私が得意なのは、おそらく舞台背景を組み上げたり設定を詳細に詰めることです。しかしそれを野放図に表に出すと、作者にしか理解できない代物が生まれます。得意をいかに制御するか。その一点が長所を長所として伝える突破口だと考えました。
簡潔なプロットに登場人物の役割だけを決め、舞台背景や諸々の設定は必要なものだけ慎重に掬い取る。バランスが崩れたらこだわった箇所ほど優先的に削ぎ落とし組み直す。
この梗概が破綻せず読むことのできるものとなっていれば、私の得意はおのずと滲み出るものと思っています。
文字数:316