梗 概
国葬
1943年4月18日、山本五十六が戦死した。1ヶ月間秘匿せられたのち、5月21日その死は発表され国葬として弔われることとなった。平民出身者で国葬されるのは山本が最初である(そして最後でもある)。
主人公はその準備と執行に追われる一人の軍人。多忙な中、漏れ聞こえてくる様々な情報に彼は翻弄される。膨れ上がる国債、見せかけの好景気、出征したまま二度と帰らない若者たち、勝っているはずの戦争の、不穏な噂の数々。街中や軍内部での様々な会話。そして山本の死の状況。ふと主人公は、これから弔われるのは一体なんなのだろう、と思う。
6月5日式は執り行われる。徹底して掃き清められた日比谷公園に、美しい顔をした山本の息子を先頭にして、葬列がやってくる。その棺には、僅かな灰が入っているだけだ。ムッソリーニの献花したバラの香りが漂う。それは日本帝国の葬儀そのものであった。
こうして日本帝国最後の国葬は終わった。式が終わり、全てを悟った主人公は、これから起こる破滅を見たくないと考え、自死を決意し、こめかみに拳銃を当てる。だが後始末をすることになる妻や、残される子供のことを思い、どうせなら全て見届けてやろうと考え直すのだった。
文字数:502
内容に関するアピール
山本五十六の国葬を、日本帝国の葬儀として描く小説です。2020オリンピックが日本の葬儀と揶揄されることがありますが、それを長いスパンで描くことにその物語的主眼があります。歴史+軍事+儀礼+映画+世界文学全集が私のマトリクスであるので、それが生きる内容を考えました。実はこれは今の世界の話をしているのかな、と思わせることが出来れば成功かなと思います。
文字数:174