星のささやき

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梗 概

星のささやき

『たすけて』とソフィアはマユの手を一文字ずつ丁寧になぞった。その間にも「私たちは当然国家のために協力し合わなければ――」と彼女の口は忙しなく動き続けていた。

国際条約による殺傷兵器の禁止と敗戦以来、音響兵器の指向性スピーカーと監視センサーはロシアの衛星国家となった日本の首都を覆っている。すべての会話が監視されている一方で、政府は求心力を失いつつある。音響兵器を含む音声メディア運用を担う行政高官のマユと人気歌手のソフィアは戦時中思想犯として拘束されていたことを背景に現在の地位を得ているが、親密だった二人の関係はソフィアの結婚以降冷えつつある。
 ソフィアの愛国歌が流れる国立美術館の巨大映像を背に、ソフィアはマユに政府設備を使った新曲の録音を求める。拒否するマユにソフィアは指文字を使って食らいつく。政府の無響室で収録した曲は生活のよろこびを表現する歌だった。イデオロギーから遠い曲に価値はないと削除しようとするマユを、ソフィアは制して監視センサーの及ばない無響室内に引き込む。指定の場所に歌の記録メディアを運んでほしいと頼み、ソフィアは足早に立ち去る。

翌日、公安のキリロフからマユはソフィアの曲を今後国家事業に採用しないよう圧力を受け、承諾する。不安を抱えたマユがソフィアの指定場所に到着し、指示に従って何度か移動すると米国外交官を名乗るサムという男が現れる。暴動でセンサーが混乱している地域を注意深く歩きながら、ソフィアと夫は米国のスパイであることが露見し逮捕されたようだとサムは話す。ソフィアは信頼できる協力者としてマユを挙げていた。サムに協力することを内心決断したマユは、収録された曲に暗号化された重要情報が含まれている可能性に気づく。サムはマユから情報を引き出そうとするが、音響兵器の暴動鎮圧に阻まれる。逃げた先にはキリロフがおり、サムは隠し持っていた薬物で自殺する。キリロフはソフィアの生命を脅しに使い、マユはメディアを渡してしまう。
 後日、ソフィアの訃報がマユに届く。
 
マユの回想。収容所で同房のソフィアはまだ子どもで、音による拷問で両親を失ったばかりだった。ここを出たら何になりたいかと聞くと、ソフィアはマユの手を握りしめ、『うたうひと』と指文字で書いた。

ソフィアの一家が亡くなったという報道は国を駆け巡るが、公安に殺されたことは伏せられている。マユと共に追悼番組を確認したキリロフは遺作となった愛国歌に小さく頷く。マユは放送直前に内容を差し替え、録音当日に自分のためにコピーし所持していたよろこびの歌を流す。放送は突如中断されるが、スタッフを音響兵器で昏倒させたマユは首都中のスピーカーで続きを放送する。曲に含まれた暗号を米国に伝え、ソフィアの願いを叶えるにはそうするしかなかった。

歌が終わったとき、マユは椅子の上で身体を折り曲げ、声を上げて泣いている。

文字数:1186

内容に関するアピール

百合が得意なので、百合小説を書きました。

文字数:20

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