梗 概
ループ・カップル・スパイラル
「ぼくだけがこの世界で何度もループしている。キミを助けるために」
ある日の放課後、女子高生の安藤ナツキは、同級生のマサオミに打ち明けられる。
その日の朝、安藤ナツキは自分が自殺する夢を見た。大学受験の失敗にて人生に失望し、首吊り自殺を図ったのだ。ナツキは明るく活発な性格だったが、感情の起伏が激しすぎるところがあった。
受験日が近づき、教室内がピリピリするなか、クラスメイトのマサオミは余裕があって誰にでも優しく、クラスのなかでも人気だった。彼はみんなに励ましの言葉をかけ続けている。ナツキは憂鬱になりながら、複雑な気持ちで彼を見ていた。
ある日の放課後、ナツキはマサオミに教室に呼び出され、冒頭の打ち明けをされたのち、いきなり平手打ちを食らわされる。彼は、自分はある特殊機関の人間であり、任務でここ数か月を 40回ほど ループしているという。目的は、ループのたびに自死しようとするナツキを止めるためだった。詳しくは言えないが、ナツキは未来で大きな研究開発に携わるため、ここで死んでもらっては困るのだという。
「初回は、受験に失敗して首吊り自殺。回数的にダントツで多いのが、好きだった男にフラれて飛び降り自殺で、俺がどんなに励ましてもお前は死んだ。前回は「道端で死んでいたネコを見て、なんとなく悲しくなったから」だと? 俺が今までどれだけ親身になって相談に乗ってやったかわかってんのかよ」
いつもの優しい態度から豹変し、文句を言い続けるマサオミに、ナツキは戸惑い、そんなこと言われても困ると怒る。彼はたび重なるループで自暴自棄になっているらしかった。
罵りあうふたりだったが、マサオミは真面目な顔でつぶやく。「次のループでは、俺がお前の目の前で死んでみようと思う。そうしたらお前も反省して、自殺をやめるかもな。これでループを抜けたら、俺は死んだままになるかもだけど」
ナツキはその言葉を聞いて、迷った末にうちあける。自分はいままでのすべてのループを記憶していること。原因はわからないが、いつの間にかマサオミと同じようにループを体験してたこと。マサオミのこれまでの行動もすべて記憶していること。
マサオミは驚きのあまり、椅子からひっくり返って狼狽する。ナツキが戸惑っていたのは、今までのループでマサオミが自暴自棄になったのはこれが初めてだったからだった。
本当は、ナツキは今回のループで、うすうす気がついていた。自分が毎回死のうとしていた理由は、これまでのループの記憶が折り重なり、気力が沈みがちになっていたこと。もうひとつは、自分が最後に死なないとこのループが終わってしまい、マサオミが自分から離れるからだった。
マサオミは、ループが終わっても、ナツキには明るい未来があると言う。ナツキは、今回のループでは絶対に死なないことを誓い、マサオミの今までの頑張りに礼を言う。
数か月後、ナツキは案の定、受験に失敗し、浪人生になった。ナツキはそれでも死ななかった。マサオミは、本当は別の任務でこの時代を離れなければいけなかったが、面倒くさそうな顔で、ナツキと同じ予備校に通っていた。
文字数:1287
内容に関するアピール
短編でループものが書きたかったのですが、何回も同じところをループするわけにもいかず、ループをせずにループ感を出すにはどうすればいいか、と考えていました。普通はループのことをペラペラ解説する必要はないので、ループに飽きてキレそうになっているところからスタートしました。よく「ここは10回目のループ世界なの」とか言われるシーンがありますが、読み手は過去9回を知らないので、いつも「ほーん」と感じていました。
タイムトラベルものは実は苦手なので、「なぜナツキがループに気が付いていたか」など詳しい仕組みは考えきれず。好きなことは、いろいろ伏線回収することです。
じつは最初のループのきっかけは、『マサオミがナツキに声をかけて、受験をがんばれと言ってくれたこと』(未来のために)。これがプレッシャーになっていたこと。なのでループのきっかけもマサオミのせいだったり。ナツキがほかの男に告白してフラれて死ぬのは、マサオミの恋の励まし(?)を聞きたいからとか。
参考文献:
『時間ループ物語論』 浅羽通明 洋泉社 2012
『時間SFの文法』 浅見克彦 青弓社 2015
『リピート』 乾くるみ 文春文庫 2007
--解説
文字数:498