妖精の舞う海

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梗 概

妖精の舞う海

青い海に臨む小都市エレトリア。後背にそびえる山には、自然物の化身とされる不老長寿の妖精ニンフが頻繁に飛来する。
 エレトリアに暮らす少女テティスは、友人の少年セインが船で都市国家アテナイへ出発するのを見送る。セインは街の名家の息子であり、政治を学ぶために故郷を離れるのだ。テティスは、将来に迷いを漏らすセインを励ます。
 その晩、突如、武装した船団がエレトリアに攻めこんでくる。新興都市ダルダニアの軍勢だった。
 テティスはダルダニア軍に捕らえられる。軍勢はニンフを狩り集めており、テティスをニンフだと思ったらしい。テティスは、自分はニンフではないと主張するが、彼女がニンフであることを示す特徴が次々に体にあらわれはじめる。

一方、アテナイに到着したセインは、故郷エレトリアがダルダニアに占領されたことを知る。アテナイの呼びかけで、周辺の都市はエレトリア解放のための連合軍を組織する。
 連合軍はダルダニア軍を退け、エレトリアを解放することに成功する。ダルダニアによる侵攻は、エレトリアの山中に隠されているという不老長寿の秘儀を得ることが目的だった。

連合軍に同行したセインは、テティスがニンフであり、ダルダニア軍の残党によって山中へ連れ去られたことを知る。
 ニンフは不老長寿の妖精などではなく、はるか昔、科学技術が高度に栄えていた頃に人工的に生み出された生物だった。ニンフは幼生の時期を自然物に擬態して過ごす。テティスはヒトに擬態したニンフの幼生だった。
 ニンフは羽化して成体になると、幼生だった頃の特徴や記憶を失うという。テティスは羽化が近いらしい。だが、たとえニンフであっても、彼女が友人であることに変わりはない。セインは残党の追討隊に加わり、テティス救出を目指す。

追討隊は、山中の遺跡に逃げこんだ残党を追いつめる。
 遺跡の地下には、はるか昔に、星への植民がはじまった頃から撮影が続けられていた膨大な映像記録とその再生装置があった。不老長寿の秘儀だと伝わっていたものの正体は、この映像装置だった。
 残党が装置を動かしたことにより、老朽化の進んだ遺跡は崩壊しはじめる。セインはテティスの捜索を続けようとするが、遺跡の崩壊に阻まれ、果たせない。

遺跡の最深部に迷いこんだテティスは、そこがニンフの産卵地であることを知る。自分がヒトではないという事実を認められず、体が変化していくことに恐怖するテティス。だが、やがてひとつの結論に達する。
「自分が何者になるかを選ぶことができるのは、ヒトだけ。ヒトでありたいと願うことができる自分は、間違いなくヒトだ。」
 たとえ自分の体はニンフでも、心はヒトであるとの結論を得て、テティスは微笑みながら羽化のときを迎える。

文字数:1120

内容に関するアピール

現状、自信をもって「得意だ」と言えるものはないのですが……。
「少年少女が、冒険を通して成長する物語」を面白く書けるようになりたい(得意になりたい)と思っているので、それを目指しました。

ニンフはギリシア神話に出てくる妖精ですが、そこから派生して、不完全変態する昆虫の幼虫のことをニンフと呼ぶと知り、今回の設定を作りました。

文字数:160

課題提出者一覧