梗 概
神とわたしの一年間
この町では毎年、正月に選ばれた一人が一年間「神」を家に迎え、世話役を果たすこととされている。今年、選ばれたのが「わたし」——十五歳の少女・ 晶(あきら)だった。晶は土地のしきたりなんて面倒だと憂鬱に思うが、両親は縁起がよいと大喜び。
元旦の午後、町の中心にあるお社から、奉職者たちが早速「神」を晶の家に連れてきた。晶と同級生であり、お社主の息子である綾(りょう)も同行してくる。「神」は、こけしか地蔵のような見た目をした、手のひらサイズの小さな人形だった。彼らは晶の学習机の隅に簡易的な神棚をつくり、それを置いて去る。
面倒に思いながらも、毎日「神」に食物と水をお供えする晶。人形は少しずつ大きくなっているように見えた。そしてひと月ほど経ったある日、人形はさなぎのようにぱっくりと割れ、なかから赤ん坊が生まれた。
赤ん坊は日ごとみるみる速さで成長する。用意した服はすぐに着られなくなる。歩き、言葉を話せるようになり、晶の心にも愛しさが湧いてくる。正月以来、人形の成長過程を報告していた綾を家に招き、二人で神に読み書きを教え、一緒に身体を動かし、擬似家族のような時間を過ごす。
神は晶たち家族と同じものを食べたが、その排泄物はビービー弾ほどの大きさの、半透明の美しい玉だった。奉職者たちが回収していったそれは、作物を、強く大きく甘く育てる肥料になるという。
春が訪れる頃には、神は晶や綾と同程度の年齢に見えるようになった。神は晶に全幅の信頼をおいており、二人が近所を一緒に歩けば、まるで恋人同士のようだと評された。毎日神の話ばかりする晶が、綾は面白くない。三人の関係は一風変わった三角関係に変化する。
この頃までは神の成長を日々楽しみにしていた晶だが、神の容貌が自分の年齢を超えてから、どんどん神が遠くに行ってしまうような不安を抱きはじめる。
夏真っ盛りのある日、晶と綾は神を海に連れて行った。神はすでに晶の父とそう変わらない年齢に見えた。海の家の女性に「素敵なお父さんね」と言われ、奇妙な気持ちになる。神はわたしのお父さんなんかじゃない。でも友達というのとも違うし、ましてや恋人でもない。わたしにとって神はなんだろう?
秋を迎える頃になると、神の顔や手には皺が目立つようになる。心穏やかに過ごしている様子の神とは裏腹に、晶は焦る。自分が世話役としての一年を終える十二月の終わりに、神もまた死んでしまうのではないか——そう考えた晶はお社主に会いにゆき、予想が間違っていないことを知らされる。「この土地で昔から繰り返されてきたことであり、我々にできるのは実りを与えてくれる神に感謝することだけなのだ」と。
大晦日の朝目覚めると、神は息をひきとっていた。奉職者たちと綾が体を回収に来る。お社で、神は燃やされた。涙に暮れる晶を綾はなぐさめる。お社主は「これは本当の死ではない」と言い、燃え跡から地蔵のような人形を取り出した。
文字数:1198
内容に関するアピール
友情や恋や愛と一言で片付けられないような、名前のつかない感情を描くことが、私の得意でありたいと考えていることです。今回は少女と神の関係性、そして神の容貌の著しい変化とともに変化する、同級生の少年を含めた三人の関係性を書きたいと思っています。
文字数:120