白球、潜(と)ぶ

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梗 概

白球、潜(と)ぶ

MLBのスター、ジョン・ロングマンが自動運転のハッキングテロによる事故に遭ったニュースは、瞬く間に全世界を駆け巡った。辛うじて一命をとりとめたジョンはグラウンドに戻るために人工細胞置換手術を受けたが、元の体には戻れなかった。ジョンは涙ながらに引退を決意する。目標を失った彼は、酒浸りの自堕落な生活を送る。彼は野球への情熱を捨てることができなかった。

ある日のこと、彼のファンがジョンに「スピリチュアル・メジャーリーグ・ベースボール」(SMLB)を紹介する。eスポーツの進化系で、「スピリチュアル・クラウド」(SC)という意識の拡張世界で行われる野球だった。ジョンは面白半分でSMLBの世界に飛び込み、強豪シカゴ=ゴールデンフェニックスに入団する。彼は即4番に起用され、特大ホームランを放つ。彼は「スターの帰還!」という大見出しで新聞の一面を飾る。ところが、彼はSC世界では並程度の実力しかなかった。首位攻防戦の天王山の試合で4打席連続三振をする。彼は不振にあえぎ、マイナーリーグに降格してしまう。

マイナーリーグでも彼のスランプは続いた。野球に関して誰よりも熱心な彼は腐らずに練習を続けるが、なかなか成果が出ない。悩める彼に声をかけたのは、MLBの元チームメイトで幼馴染のフリッツ・アトレーだった。彼はジョンに対して気分転換にピッチャーをやってはどうかと勧める。ジョンは高校生のときに肩を壊し、ピッチャーを断念した経緯があった。
ジョンは久しぶりのマウンドに立つ。彼の投げたボールは豪速球で、しかも針の糸を通すようなコントロールだった。ジョンはピッチャーとしてSMLBに挑戦する決意を固める。フリッツは「夢は、いつでも叶う」という言葉を残して、ジョンの元から去っていった。
シカゴ=ゴールデンフェニックスのピッチャーとして再契約したジョンは、マイナーリーグで好成績を残してメジャーに昇格する。そして、彼はスピリチュアル・ワールドシリーズの4戦目でワンポイントリリーフとして登板し、勝利に貢献する。

3勝3敗で来たワールドシリーズ7戦目の最中、球場で爆破テロが起こる。犯人の男はジョンをMLB引退に追い込んだ天才ハッカーだった。男は球場にいる観客の意識を人質にして、ジョンに一打席勝負を申し込む。負ければ球場にいる観客の命はない。犯人はジョンのMLB時代をコピーしたアバターで打席に入る。かつての輝かしい姿を見てジョンの心は激しく動揺して、なかなかコントロールが定まらない。
 ジョンを救ったのは球場にいるファンの大声援だった。彼は渾身のストレートを投げ切り、勝利を収める。

ジョンは10年以上SMLBでプレーしたあと第一線から退き、後進の育成に力を注ぐ。彼の教え子は老若男女、様々だった。SC世界における野球少年、野球少女たちに向けて、彼はいつでも次のように熱弁する。「夢は、いつでも叶う」と。 

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内容に関するアピール

あつい物語ということで、「まあ、とりあえず、スポ根をやるんだろうな」と思い込み、勝手に突っ走ってしまいました。(みなさん、理知的な方ばかりだと思うので、こういうのはあまり興味がないかも知れませんね……)
 とはいえ、ただのスポ根ではSFになりようがないと思ったので、出来るだけ肉体をいじめず、心の中(電脳世界?)でスポーツをやらせようと思いました。小難しい言葉を一切使わず、ファンタジーもどきに終始している感もありますが、「近未来では野球は仮想世界でも行われ、心が若ければ老若男女が一流になれる」という理想をかきたかったのです。 
 別の野球モノで、「引退間際の選手がいて、現役最終打席で、野球人生が走馬灯のように蘇ってくる」という話を構想しましたが、熱い物語とは食い合わせが悪いと判断して、それはやりませんでした。(はてさて仮想世界でそうした作品が作れるだろうか)と、考えるだけでワクワクします。

文字数:397

課題提出者一覧