ゆで卵にはならないよ

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梗 概

ゆで卵にはならないよ

地球規模の気候調整システム、「ランダム」を作り出した人類だが、
そのシステムが故障してしまう。
このままでは、地球の気温が上昇し、いずれ人類は
ゆで卵のようになって死滅してしまうことになる。
「ランダム」そのものは、強固な防御陣地を引いた基地の
奥にあり、決死隊を出してシステムの停止、もしくは破壊を
試みることになった。決死隊の一人、鷺宮は秘密の指令を
帯び、この決死隊に潜りこんでいる人間である。
彼の秘密指令は、気候調整システムの修理にかこつけて、
出身国の気候を調整することにある。
一度調整されたシステムは、広大な規模の影響を与える反面、
すぐにどの程度の影響を与えているのか、観測されないだろう、
少なくとも2~3年の猶予は与えられるとの希望があった。
自国優位の気候調整を行い、更に一日でも長くその気候を
維持し続けるように画策する、それが鷺宮の出身国の計画であった。
そもそもこの「ランダム」も地球温暖化対策のひとつの手段と
して開発された物だが、地球全体の熱の総量が減るわけでなく、
ある地域から地域へ気候を移すことに眼目がある。
鷺宮は、自分の子供時代を思い出す。今の日本的な風土が
頭を駆け巡るのだが、今の故郷は乾燥し、生育するものも
丈短い草がやっとという有様であった。
決死隊のリーダー、ポルックスは、恵まれた気候を奪い取った国の出身で、
傲慢で、自分の国の豊かさに疑問を差し挟むことを許さない
人間だった。「ランダム」に近づけば近づくほど気温が上がり、
チームが疲弊し、不満が噴出するようになる。
そもそも、この行動が順調に行ったとしてもポルックスのような国の
人間が得をするだけで、チームのほとんどの人間の見返りなんて
ちっぽけな物なのだ。それでも、この決死隊に参加した人間達は
その見返りが欲しかったり、秘密の指令を帯びていたり、全人類的な
希望を持った人間達だったのだ。混乱し、バラバラになるチーム。
まるで、熱気が意志を持って人に襲い掛かるような施設内、
鷺宮は自分の義務のため、そして思い出のためにシステムの
中心部へと足を進めた。目的に着いた鷺宮は、逆に驚愕した。
システムはこのような事態を引き起こすようになっていたのだ。
「ランダム」は調整にかこつけて、温暖化を促進していた。
「ランダム」開発の主眼は気候調整だし、それは今も正常に作動していた。
人間が温暖化に対応し始め、特殊なタンパク質を生成し、以前よりも
高温の環境で住めるようになったことに対応して、
人類のための最適環境になるように行動していたのだ。
思い出の中の風景に戻すため、自分が行動していたことが唯の
エゴイズムに思えてきた鷺宮は、どうしようか悩む。
そこにポルックスがやってきて言う、今のままが人類のためだ、と。

ポルックスは最初から、決死隊を失敗に終わらせようとしていた。新人類のために。彼に共感し、システムをそのままにする鷺宮。彼は思い出に告げる、さようなら、と。

文字数:1199

内容に関するアピール

みなさん、よくわからないけど興味があり大変そうな地球温暖化を
テーマにしてみました。暑いという題材を与えられて思い浮かんだのが
これでしたので、問題をテーブルに出してみて、解決を試みるという一般的なアプローチの
あと、問題なんか実はなかったよ、という話に落としてみました。
意外と今年は涼しいので、これで良かったのかという思いはありますが、
間口は広く取ってみて、分かりやすくできたかな、とも思います。
陳腐だとは思いますが、実作にも挑戦してみたいです。

文字数:221

課題提出者一覧