そういう”物語”が読みたかった

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梗 概

そういう”物語”が読みたかった

新進気鋭の文学賞を受賞した作家志望の少年”モップ”。
高校の文芸部長である1つ年上の少女とともに授賞式に出席すると「人工知能を利用して小説を書いている」という大学教授と出会い、3人は意気投合した。

後日、モップらのもとに授賞式で出会った教授からメールが届いた。
そのメールには、彼らを気に入った教授が本業の片手間に作った「もう1つの人工知能」のアクセス権を送ってくれるという旨が記されていた。
早速アクセスしてみると、そのソフトはディープラーニングを利用してネットワーク上のあらゆる物語の構成を分析し、入力した任意のプロットの完成度を図れるという「物語診断ツール」だった。
思いがけないプレゼントにモップらは喜び、その日から早速使いはじめた。

ある時、いつものように診断ツールを使おうとした部長は、コピペを間違えてプロットではなく進路希望書に書き込むはずだった内容を入力してしてしまう。
てっきりエラーになると思っていた2人だが、意外にも診断結果は正常に吐き出された。
読んでみると、サジェスト機能による修正プロット案が未来の内容を表示している=未来予測となっていることに気づいた。
ソフトの高すぎる診断精度が、因果関係と整合性を判断した結果として未来に至るまでの事象を予測してアウトプットしてしまったのだ!

モップは驚愕した。
この機能を使えば、未来のことを知ることができる。商売で成功することもできる。政治を動かすことができる。金儲けもできる、地球征服だってできそうだ。
だが、あらゆる可能性を秘めたこのツールで予測したい未来・・・いや、モップにとっての「掴み取りたい未来」はそんな大それたことではなかった。

彼の望む理想の未来、それはモップが密かに想いを寄せる相手である、文芸部の部長の心を射止めることだった!
それから彼は密かに診断ツールを使い、幾度とない条件入力によるトライアンドエラーの末に、ついに告白に必要な条件を発見した。
最後の仕上げとしてプロット診断を使って告白までの理想的な流れとなる筋書きを作り上げた。
これらの人工知能によるサポートの末、モップの告白は見事成功して2人は晴れて恋人となった。

それからしばらくして教授と再会した2人は、プロット診断ツールを使って未来予測ができることを打ち明ける。
すると、教授はそのことを承知のうえで”一番面白い使い方”をしそうな人にアクセス権を渡したと白状した。

事情を知らない部長は首を傾げ、モップは赤面し、そんな2人の様子を見て教授は愉快そうに笑っていた。

文字数:1041

内容に関するアピール

「エンタメの王道」を意識し、まずは物語の基本骨子を「高校生男女による直球のラブストーリー」として設定しました。
そして「『SFとしてのアイデア』を中核に据えて見せるよりも、『物語を支えるギミックとしてSFガジェットを選ぶ』くらいのバランスで作られた物語」
という理想を目指した中で、2016年の今だからこそとても身近なSFテーマである「人工知能」を題材として取り上げました。

中核となるSFガジェットである「ディープラーニングによってプロットの完成度を自動診断するツール」は、
星新一賞の一次選考を通過した人工知能に関連した話題として、とある大学教授に伺った
「人工知能の応用としては、今のところは物語を”作る”より”判断する”ためのソフトを作るほうがずっと現実的」
というお話から着想を得ました。

文字数:343

課題提出者一覧