未知との遭遇 三十一文字

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梗 概

未知との遭遇 三十一文字

ある初夏の日、高野洋平は会社からの帰宅途中、甘い線香のような匂いを感じた、男は懐かしい香りだと思ったが特に気にすることもなく自宅へと向かった。それ以来、月に一度ほど帰宅途中にそのような匂いがどこからか漂ってくるようになり、それが満月の日であることに気づいた。最初に香りを感じてから数ヶ月たち、高野は出どころを突きとめたくなり匂いが強くなっていく方へと向かっていくことにした。匂いのする方向へ向かっていくと台地の上にある住宅街の公園へとたどり着いた。そこで高野のスマートフォンにメールが届いた。

 

同じ頃、京都の大学院では研究室の材料を私的に使い、芳香族ポリアミド繊維にアルミを蒸着させている男がいた。太田智と言う材料化学を専攻する大学院生である。彼もある時から香りを感じるようになりその方へ行くとメールを受けとった。メールを受けとると匂いが一層強くなり彼の頭に黒髪の女性のイメージが浮かんだ。本文には和歌のみが書いてあり、太田は夏の景色を詠んでいることしかわからなかった。それからというもの月に一度匂いのする方へと向かうとメールで和歌が届くようになり同時に顔の見えない女性のイメージが浮んだ、太田はその女性に非常に心惹かれた。和歌の内容はわからず現代日本語で返信をした。なんどかやり取りをすると女は火鼠の皮衣を欲しいと言ってきた。火鼠とは中国に伝わる妖怪で、その毛で作った布は火に燃えず、汚れても火に入れると真っ白になるというものらしい。また竹取物語でかぐや姫が阿倍御主人に要求したものである。そして太田はそれを作ろうとしている、これを作り上げることでイメージする女性に会えると思ったからである。

 

高野がメールを受けとると顔は見えなかったが女性のイメージが浮んだ、そしてメールには和歌と古語と思われるものが書いてあった、高野は意味が全くわからず帰宅後、ネットで古語を検索しどうにか読んでみた。和歌は夏の風景を詠んだ歌であったが添えられていた文には人違いであり誤って接触してしまったということが書いてあった、和歌も掛詞などを調べてみると謝罪が含まれていた。高野は非常に落胆したが女性のビジョンが極めて美しかったこともあり和、歌の文法を調べ自分で和歌を作成し返信した。次の満月の夜に匂いのする方に行くとまたメールがとどいた、そこにはもうこの出会いと出来事は忘れて欲しいなどと古語で書いてあったが高野は諦めることはできないという事を詠んだ和歌を送った。それから高野は香についても調べ始めた、夏のに感じたのは荷葉の香であった。それ以来高野は季節ごとに自分で香を調合し、自宅で香を焚き満月の夜は服に焚き染めて文のやりとりを行った。そしてある夜、次の満月に女が富士山頂に来るという知らせが届いた。

 

高野が富士山頂に着くとそこには4人の男がいた、彼らはそれぞれ何かを持っていた。月の光が強くなり人々の毛穴まで見えるほどになると空から、雲に乗って人々が降りてきた。その中にはイメージの女がいた。女性が降りてくると太田は女に不燃布を渡した、女はそれをいつの間に出ていた富士の火口に落とし、燃えるのを見ると女の近くにいた人が太田を追い払った。他の男たちもそれぞれの貢物を渡すが女は不満足なようであった。そして女たちは天に戻って行こうとしたが、高野が出て行き女に対する愛情を叫んだ。すると女は男に他にいう事は無いかと尋ねた、そして高野は愛を叫んだ。女はこのような男が心が変わってしまうのは悲しいと言いながら高野に羽衣を着せる。そして高野を連れて女たちは天へと帰って行った。

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内容に関するアピール

エンタメとは?と考えた時に私が考えたのはミュージカルでした、そこで小説におけるミュージカルというのはなんだと考えた時に歌物語が出てきました。歌物語は平安時代に日本で成立したジャンルですが、伊勢物語、源氏物語など読んだことはなくても名前は聞いたことはあるという人は多いのではないかと思います。そして1000年たってもこれだけ知名度があり読み継がれているということは歴史的価値が高いというのもあると思いますが面白いからというのも大きいと思います、すなわちエンタメしているから!

 

というわけで現代の歌物語を作ってみたいと思います、実作では本歌取の形式が多いと思いますが実際に和歌を挿入し、ミュージカルを作りあげようと思います。

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課題提出者一覧