ルーフトップ

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梗 概

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 VRのヘッドマウントディスプレイを強制的に取り付けられた主人公の「俺」は
 母校の屋上(の仮想空間)で14年前に転落死した同級生を救おうとする


 2030年、VR(Virtual Reality)技術はCG制作の圧倒的な低コスト化により、暴力・性描写をメインとしたアマチュア主導のアングラ・カルチャーを形成し、昏い輝きを放っていた。
 主人公の「俺」はフリーの記者だ。「俺」は天才的な覆面クラッカーにしてVRプラグラマーの「李」の取材アポに成功し、中国・成都を訪れる。が、カメラマン兼通訳の「張さん」ともども道中で何者かに拉致されてしまう。薬で昏睡させられた2人は、屋上で目を覚ます。・・・・・・ここは「俺」が卒業した小学校の屋上である。中庭を囲むようにして真四角に形成されたシンプルな構造の屋上は、地上が優に600メートルは下にあるという以外は、当時の面影そのものである。
 「俺」と「張さん」は、自分たちの頭にヘッドマウントディスプレイ(HMD)が堅く取り付けられていることに気づく。ヘッドホン経由の音響のほか、風や匂いを感じられるほどの環境が整備されており、没入感がすさまじい。そのクオリティから「俺」はこの仕掛けに「李」が絡んでいることを確信する。これは何かのデモンストレーションなのだろうか?
 と、2人のいる対角線上の入り口から1人の少女が屋上に上がってきた。彼女は「俺」のクラスメートだったが、4年生時にこの屋上から転落死をしている。いまだ理由は分かっていない。「俺」は屋上を回りこんで彼女に声をかけようとするが、もう少しで手が触れるというところで彼女は屋上から飛び降りてしまう。呆然としている「俺」と「張さん」の立っている対角線上の入り口から、また同じ少女が上がってきて、先ほどと同じように飛び降りてしまう。
 それを繰り返しをしているうちに、これが自分の潜在意識下でトラウマになっている思い出をソースにプログラムされた世界だということを「俺」は気づく。「李」はプレイヤーにとって恐怖と嫌悪を最も感じさせる悪趣味なゲームを開発したのだ。
 一向に終わろうとしない仮想空間と、どうしても取り外しができないHMD。義憤にかられる「俺」は、ふと風景に違和感を覚える。屋上に柵がないのだ。「俺」自身、母校の屋上には柵がなかったと思い込んでいたが、これは当時の安全基準の観点からは考えにくい。つまりは、少女の転落に影響された自分が、屋上の風景を間違ったふうに記憶していたのかもしれない。・・・・・・と思うと同時に、柵が出現した。
 自分の記憶がリアルタイムで仮想空間に影響を与えることに気づいた「俺」は、自分の不確かな思い出を修正しながら、仮想とはいえ少女の転落を防ごうとする。しかし柵を立てようがネットを張ろうが、それをかいくぐって少女は転落をしてしまう。彼女が死んだことは事実だからだ。こうなったら物理的に彼女の手をつかみ引き留めてみたいと感じた「俺」だが、常に彼女は対角線上に現れるため距離を縮められない。なかばやけくそで、「張さん」がお小遣い稼ぎに持ち合わせていた合成ドラッグを使って風景の改変を行い、アクロバティックな救出劇を画策する。

文字数:1318

内容に関するアピール

 「エンタメ小説」ということで、なるべく映像的で、派手な挙動をする空間を作りたいと考えています。また、前向きなラストとします。

文字数:63

課題提出者一覧