ガルレム双対圏

印刷

梗 概

ガルレム双対圏

神奈川県郊外の画一的な街並みの中に身を潜めるように、『自動画』の中央取引所はあった。
地元の美術大学発のベンチャー会社ガルレムが映像作品の自動生成サービスを公開してから20年の時が流れていた。

究極のマルチメディアと業界に激震を与えたこのWebサービスは、
特殊なAuth認証によってユーザーのネット上でのコンテンツ消費ログを蓄積し、
オーダーメイドの映像作品を自動生成するものだった。

それによって手に入る作品の数は半年で大手動画投稿サイトが公開する本数を越え、
いつしかそれらは『自動画』と呼ばれるようになる。
そして、次の半年でマルチメディア企業の上位10社の時価総額の合計は半分になり、
残りの半分がガルレム社に転がり込んだ。

しかし翌一年間で会社の業体は一変する。
ガルレム社のサービス上で出力された映像作品をローカルで出力、保存して楽しむための頭部搭載型デバイスが発売されて以降、
おまけ程度に付けた映像オークション機能によって、映像同士の物々交換で回る奇妙な経済システムが生まれた。

そのあまりに巨大な全体の取引額はすぐ様ガルレム社の知るところとなる。
歪に活用されていたオークション機能を全て作り変え、P2Pでできる映像取引システムを新たに構築した。

それを元にガルレム社は世界でも類例の無い、映像商品を扱うためだけの取引所を設立させた。

純粋にパーソナルなデータによって自動生成される映像作品は、
作った本人だけが気持ち良く消費されるようにプログラムされている。

そのコアとなるエンジンはガルレム社設立者の一人、左巻によって作られていた。
左巻はガルレム圏と呼ばれる複雑な代数構造を扱う圏がパーソナルデータの分析に援用できることを大学時代に思い付き、
その実装として『自動画』生成システムのコアとなるエンジンを作った。

ある人物の趣味趣向や人格を解析し、最適な快楽を与える映像作品を自動生成する『自動画』とそれによって回る経済。
そこで人々は人生の全てを賄うことができると思っていた。
そんな最中、突如『自動画』のコアエンジンがこれまでとは全く逆の不快な動画ばかりを生成するようになる。
それと同時に中央取引所でも映像作品の大暴落が始まった。

左巻の娘、逸子が事態を収拾するために父を訪ねるが、
彼はコアエンジンのソースコードをロシアの軍産複合体に売り払ったことを告げる。

最後の手段として逸子はサーバー上を動くコアエンジンを逆コンパイルして父のエンジンを作り直そうとする。
そこで見た父のコードはガルレム圏の関数が全て逆向きの写像によってできた双対圏の実装になっていた。

それに気付いたまさにその時、中央取引所がロシアの空爆によって破壊される。
逸子は父とロシア軍の傭兵に救出され、輸送機の上から故郷の大地が燃え上がるのを見送った。

文字数:1147

内容に関するアピール

今回の課題「『エンタメSF』の設計」を見た時に最初に感じたのが、
文芸としてのSFから映像としてのSFへ舵を切ることでした。

日本での映像作品の受容は、間違いなくアニメーションというものに少なからず偏っているのでしょう。
そこでは同じような快楽を得られる映像が再生産され、
繰り返し受容されてしまうように管理されたシステムが構築されている。

字面だけを見るとこれは一つのディストピアが実は今ここにあるのではないか、
そこが最初の取っ掛かりでした。

そして、そのシステムを分解する上でどうしても必要なのが経済でした。
あとは映像と経済でできたシステムを自動的に駆動するギミックとして数学と戦争を着想し、
本梗概となりました。

映像、経済、数学、そして戦争。
できるだけ心躍るエンターテイメントを書きたいと思います。

文字数:345

課題提出者一覧