梗 概
蚊学忍者隊さいとう
今年もアノ季節がやってきた。齋藤博士は、まぎれもなく地球を救った研究者である。
「しかし人類を救うことは叶わなかった」、続けて「夏が来れば思い出す、はるかな尾瀬、遠い空~。と来たもンだ」
地球の平和な夕暮れ時であった。
ビギニング
齋藤博士は人類の将来を憂いていた。環境汚染、気候変動、核兵器、そして野放図な宇宙開発。博士はついに立ち上がった。今日は、特定非公認活動組織「蚊学忍者隊さいとう」の結団式であった。
蚊学忍者隊さいとうの構成員は全員女性、つまりは「くノ一」である。隊員たちは一見、いかにも蚊にしか見えなかったが、実際にはモスキート型マイクロ兵器に見せかけた繁殖専用ロボットであった。一撃必殺で子どもを宿す、禁断の高性能精密マシーンなのである。
ファースト・ジェネレーション
作戦は、人類発祥の地、アフリカ大陸から開始された。隊員たちは、池や水田、水たまりなど、人間のあらゆる生活圏に卵を産み付けた。銘打って「ボーフラ作戦」、合言葉は「にっこり笑って、ぐさりと刺す」。
しかし、程なくしてヤゴが大量発生した。トンボの幼虫ヤゴは、水中で蚊の幼虫ボーフラを食べる。ヤゴに捕食され作戦は失敗した。
博士は、蚊の天敵は人間ではなくトンボであることを忘れていたのだ。
リターンズ
ある大名が相撲取りを探しているというので、隊員が人に化け、使者の太郎冠者に付いて江戸に上った。大名とは言え相撲を取るときは裸である。隊員は大名と相撲を取るやいなや血を吸おうとしたが、すんでのところ気づかれてウチワではたかれ、太郎冠者にくちばしを引き抜かれてしまい敗退する。(狂言「蚊相撲」)
ルーマニアでは、トランシルヴァニア城主のドラキュラ伯爵に化けた隊員が、ロンドンまで出稼ぎに出かけ、いい所まで行くのだが、十字架と聖水という蚊にとって理解不能な武器によって敗退する。(映画「ドラキュラ」)
ファイナル・エディション
化学兵器を使用した近代戦である。対するアース帝国は、香取仙子(環境大臣)統括の下、陸軍のベープ大佐が指揮するモスキラー作戦が功を奏したように見えたが、空軍(金の鳥)がさいとう隊に寝返った。アース帝国も善戦したが力尽きる。蚊学忍者隊さいとうの勝利であった。
血を吸われた人間は、そのクローンが隊員の体内に宿り、成長を遂げ、さいとうさんが生まれる。さいとうさんは小さく、身長5ミリ足らずである。
「これで地球環境は守られた。人類も小さいなりにこの星で生きていける」
博士の頬に感涙の一筋が流れたとき、トンボの成虫が大挙して現れた。
フーチャー&パスト
成虫のトンボは成虫の蚊を食べる。さいとうさんは空を飛べない。小さいさいとうさん達はトンボに捕食され尽くした。全滅であった。
「夕焼け、小焼けの、赤とんぼ、食われてみたのは、いつの日か」
齋藤博士もトンボになっていた。博士はさらに続ける、
「~~、とまっているよ、竿の先」
文字数:1200
内容に関するアピール
何万年と続いている(であろう)、人類と蚊との熱くて長い戦いを描きました。さいごは、正義感と倫理観とに勝る蚊が勝利しますが、残念ながら最終的な目的のひとつである人類の救済には至りませんでした。
蚊の総体が知性(らしきもの)を持って種の存続を図っていると思われますが、その蚊の知性が暴走した時、齋藤博士の人格を形成しました。心優しい博士(蚊の知性)は、人類と地球とを救うべく過去から現代まで様々な作戦を展開しており、今回のお話しはその攻防史と顛末です。
博士は自分が地球の賢者であると勘違いしたのかもしれませんし、ただのお節介だったのかもしれません。博士にとっては、人類と地球との救済のための戦いでしたが、自然界の食物連鎖には勝つことができず、皮肉にも人類を滅ぼす結末となります。しかし地球には平和が訪れます。本編では、トンボになった博士が、自分を滑稽な存在だと客観的に捉えながら歌う童謡で涙を誘いたいです。
文字数:400